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2017.06.03

ライフ

マンションの買い時かどうかはわからないが、お金の借り時であることは間違いない

同世代で資産運用をうまくやっているヤツはどんなことをしているのか……。30代後半、会社員のSさんは30歳で結婚したとき、結婚資金を使い果たして資産はまさにゼロ。ところが、ここから10年足らずで金融資産は3000万円超。東京の人気エリアに立つ7000万円台の高級マンションも購入という、なんとも、うらやましい状態にいます。
Sさんに一体、何が起きたのか。全6回にわたってお届けする、Sさんが「こっそりうまくやっている」マネー運用術、今回は第4回。マンション購入の物語です。

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住宅ローン史上空前の低金利。親世代の住宅ローンの金利は6%とか7%だった

会社員Sさん「もともとは賃貸派だったんです」
もともと賃貸派だったというSさん。マンションを買う気は実はまったくなかったのだと言います。
「住宅ローンに縛られて、身動きが取れなくなる、というのが、一番イヤだったんですよね。それは、あまりイケてない。転職でも転勤でも、何か仕事でいいチャンスをもらったとき、ローン返済が気になってオファーが憂鬱になる、なんてのは絶対に避けたいな、と」
ところが、Sさんの考えが大きく変わっていきます。キーワードは、金利でした。
「あるときふと気づいたのは、史上空前の低金利だったということです。当時は1%台でしたが、実はびっくりするほどの低金利なんですよ。しかも、固定金利で借りられる。ありえない。僕たちの親が住宅ローンを借りていたときの金利って、6%とか7%とかなんです。もし、この水準だったら、満足のいく家は絶対に買えなかった。今は本当にラッキーな時代だということに気づいたんです」
この頃、何よりも違和感を感じたのは、テレビのニュース番組について、だったと言います。日経平均や為替については報じますが、住宅ローン金利については報じない。住宅を買おうとする子育て世代にとって、どっちが重要な数字なのか、と。どうしてもっと早く教えてくれなかったのか、と。
「僕もちゃんと意識しなかったら、住宅ローン金利なんて興味もなかった。その凄さを改めて知ったのは、この金利なら年収でいくら借りられるか、をたまたまネットで計算したときです。シミュレーターがたくさんありますからね。それでやってみたら、月に支払う返済は同じ額でも、金利が3%だと5000万円しか借りられないのに、1%だと7000万円まで借りられることがわかって。なんだ、これは、と。なるほど、こういうことなのか、と。7000万円あれば、いい家が買える可能性が大きくなるじゃないですか」

仮にマンションを賃貸に出したとしても、住宅ローンや固定資産税等は支払える計算になった

もともと買うことを躊躇させていた”払えなくなるリスク”も、当然考えました。そこで、気になる物件の賃貸相場を調べてみたといいます。
「要するに賃貸に出したときに、家賃で住宅ローンや管理費や固定資産税が払えるか、です。計算してみたら、ぜんぜん大丈夫だったんですよね。じゃあ、いざというときは、貸せばいいんじゃないか、と」
ここまで自信を持って思えたのは、実は買ったマンションの別の部屋に賃貸で住んでいたことがあったから。そのマンションの心地良さをよく知っていたのです。しかも、東京の人気エリア、大手デベロッパーの最高ランクのマンションでした。
「売りに出ていたのは、借りていたときより広い部屋。眺めも良かった。オープンルームになって、僕が最初のお客さんだったそうです。それで速攻で決めてしまいました。パーティルームがあったり、来客用のスイートルームがあったり、マンションの魅力はよくわかっていましたから。もちろん住むには最高だと思ったし、ここなら貸せる、と思える部屋でしたし」
そして、最後に購入を後押しすることになったのが、住宅ローン控除の存在でした。
「例えば、金利が1%で、条件や上限はあるもののローン残高の1%が所得控除になる。要するに所得税が戻って来るわけです。要はこれ、人によっては金利がほとんど相殺されちゃうということなんですよ。金利分、払わなくていいわけです。タダで借りてるようなものなんです。それこそ今はもっと金利が低いから、場合によっては、借金したら相殺どころかキャッシュバック、なんてことにもなる。ものすごい時代なんです」
金利パターンもいろいろ調べましたが、最終的には「フラット35」を選びました。理由は、全期間固定金利で借入額を最大限にできたから。頭金は、実はあまり入れていないそうです。
「それこそ株をたくさん売れば頭金をもっと入れられたかもしれませんが、それより手元に資金は持っておいたほうがいいですから。だって、とにかく金利が安いんですよ。その金利以上で手元資金を運用できるなら、得なわけです。マンションの買い時かどうか、僕はプロではないからわかりませんが、少なくともいえることは、お金は借り時だということです。こんな安い金利で長期固定できるなんて、もうありえないと思いましたから」
「頭金はたいして入れてません。こんな低金利時代にめいっぱい借りないほうが損」

ネット上の価格下落リスク等の批判は、むしろプラス。いいタイミングだと周囲に言われる方が危ない

人気のエリアなので、マンション供給が過剰になっている、価格が落ちる、という声も周囲から聞こえ、ネット上ではたくさん拾えたそうです。これについては、Sさんは一蹴します。
「投資の原則は少数派であることです。多数派では利益は絶対に得られない。当然ですね。未来の少数派でいることが大事なんです。だから、みんなが騒ぐほど、笑っていました。むしろ、いい物件を買いましたね、いいタイミングだね、と周囲に言われたら危ないとすら思っていました。少数派バンザイ、ですよ」
買ったら不自由になるかと思いきや、むしろより自由になった、とSさん。
「これからインフレに向かう可能性があります。そうすると、借金って相対的に減るんです。なんで今、借金しないのか。そっちのほうが不思議な状況です」
引っ越してすぐ、会社の同僚たちを呼んでパーティルームでお披露目パーティをしたそうです。その後、彼のもとには、同僚が続々とマンション購入を相談しに来るようになりました。
(第5回に続く)
取材・文/上阪 徹
1966年、兵庫県生まれ。アパレルメーカーのワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスに。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに、雑誌や書籍などで幅広く執筆やインタビューを手がける。著書に『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)、『僕がグーグルで成長できた理由』(日本経済新聞出版)、『職業、ブックライター。』(講談社)、『成功者3000人の言葉』(飛鳥新社)、『リブセンス』(日経BP)など。


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