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2017.05.27

ライフ

株は究極の趣味。会社員なら仕事したほうが確実に稼げる

同世代で資産運用をうまくやっているヤツはどんなことをしているのか……。30代後半、会社員のSさんは30歳で結婚したとき、結婚資金を使い果たして資産はまさにゼロ。ところが、ここから10年足らずで金融資産は3000万円超。東京の人気エリアに立つ7000万円台の高級マンションも購入したという、なんとも、うらやましい状態にいます。Sさんに一体、何が起きたのか。全6回にわたってお届けする、Sさんが「こっそりうまくやっている」マネー運用術、今回は第3回です。

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株は濡れ手に粟、ではない。脇の下をツツーっと嫌な汗が流れる瞬間がどれほどあったか

会社員Sさん「株の儲けは我慢料、と僕は考えています」
株ブログへの関心から、「株にはストーリーがある」ことを知り、「より面白いストーリーが描けるのでは」とニューヨーク証券取引所で株式取引を始めたSさん。100万円の資金で、優良株からベンチャー株まで、取引を何度も繰り返し、資産を膨らませていきました。
日本時間では夜間に取引が行われるため、「仕事中に気もそぞろになる」ことがないアメリカ株は、選択肢としてとても良かったと語ります。2〜3銘柄から最大で10銘柄ほどに投資し、一部をリスクの高い銘柄へ。安定銘柄8割、リスク銘柄2割の、いわゆるポートフォリオ分散です。
痛い思いもしながらも、全体としてはリターンを伸ばし、株式市場が好調だったこともあって、コツコツと売り買いを繰り返すことで、5年で元手は300万円を超える規模になりました。そして、このとき改めてわかったことがあったと言います。
「株をやったことがない人は、不労所得だ、濡れ手で粟だ、などというわけですよ。額に汗するのが労働だ、と。でも、たしかに額には汗しませんが、脇の下をツツーっと嫌な汗が流れる瞬間がどれほどあったか。株の儲けは我慢料、と僕は言っていましたが、大変なことなんです。確実に儲かるかなんてわからないし、証券口座の管理画面を開いた瞬間、金玉がスーッと上がるくらい愕然とした瞬間もありました」

会社員なら仕事で自己投資したほうが効率的。株式投資は究極の趣味である

甘い覚悟でやっているわけではない、ということです。徹底的に勉強しないと儲けはないし、濡れ手で粟、なんてことはない。実際、懸命にストーリーを考え、投資を進めていきました。そして、5年で3倍にしたのです。株式投資で儲けるのは大変。その覚悟がなければいけない、とSさんは言います。
「それこそ会社員なら、会社に来て仕事をすれば確実に給料がもらえるわけです。だったら、自分の仕事を一生懸命やったり、仕事面で自己投資をしていくほうが絶対にいいと思いましたよね。では、株式投資とは何なのか。それは、趣味です。究極の趣味ですよ。趣味って、お金かかるじゃないですか。そのくらいのつもりでやると、ちょうどいいんです。そうでないと、本当にしんどくなる。思い切ったこともできなくなります」
株式投資は趣味。だからこそ、Sさんは思い切ったチャレンジに踏み出すことになります。株式投資を始めて6年。必ず銘柄を分散して投資していたのですが、「これは!」という銘柄に出会ってしまったのです。それが、フェイスブックの株でした。
「2012年に上場したとき、1株42ドルだった初値がじわじわと落ちていって、1年ほどで16ドルくらいになったんです。創業者が上場後にすぐ結婚して新婚旅行に行った、みたいなバッシングもありましたが、僕は明らかにおかしいと思ったんです。ユーザーとして使っていて、とても良かったし、使っている人もまわりにたくさんいた。株価が落ちた理由が、自分には腑に落ちなかったんです」

フェイスブック株のIR資料はほぼ読み、決算説明会も必ず聞いた。もちろん全部英語

「フェイスブック株のおかげで、実用的な英語が身についた。一石二鳥以上でしたね」
20ドルに達する前あたりから、Sさんはじわりじわりとフェイスブック株を買っていきました。10社程度に分散していた投資を、どんどんフェイスブックに投じていったのです。6カ月ほどかけて、平均20ドルほどで約300万円分。株式投資のほとんどをフェイスブックに振り向けてしまいました。
「この間、フェイスブックについて、めちゃめちゃ勉強したんです。IRの資料はほぼ全部、読みました。毎回の決算ではカンファレンスコールという電話会議で開かれる決算説明会も必ず聞きました。もちろん、全部英語です。お金かかってますから、必死で英語も勉強するわけですよ(笑)。おかげで、自分の好きなことで英語が学べましたね。とても真剣に(笑)。無味乾燥に英語を勉強するより、よほど良かったと思います」
預貯金を含めて全財産の約2分の1ほどにもなった金額で、すべてフェイスブック株を買ったSさん。そしてじわじわと株価が上がっていきます。35ドルを超えたあたりから売り始め、徐々に売っていきました。
「買うときも売るときも、僕は絶対に一気にやらないです。基本的に少しずつ少しずつ。これが、リスクコントロールになる。ただ、売るときが難しいんです。買いはゆっくりでもいいけど、売るべきときには、一気に売らないといけない」
株価はするすると上がって60ドルくらいでほぼすべて売り切りました。株価は約3倍です。300万円の投資は、3カ月ほどで約1000万円に膨らんだのです。
「今、フェイスブック株は140ドルくらいをつけています。ここまで持っていたら、と思われるかもしれませんが、これでいいんです。売った後に上がったのを、残念がってもしょうがない。一番ダサいのは、欲をかいて結局、利食いのタイミングを逃してしまうことです。それこそ、趣味ですからね。ちょっとした実益を兼ねた趣味。そのくらいの感覚でいえば、ちゃんと冷静に売れます」

常に謙虚な気持ちが大事。天使と悪魔が紙一重で心の中で戦っているのが、一番いい状況

証券用語にも、こんなものがあるそうです。“もうはまだなり、まだはもうなり”。どこで思い切れるか、が問われるということ。
「これだ、と思える銘柄の安値に出会ったら、思い切るんです。これが大事。だから、会社員なら、自分の会社の株を買うのもいいと思いますよ。本当に自分の会社がイケてると思うのなら。もっと言うと、凄いな、と思える競合の株を買うのも手。競合の強みは、よく知ってますからね」
そして認識しておかないといけないのは、常に謙虚な気持ちだ、とSさん。
「これでいいのか、いやダメなんじゃないか、自分だけが知らない見落とした悪材料があるんじゃないか?いや、あれだけ調べたんだから大丈夫なはずだ!と天使と悪魔が常に紙一重で心の中で戦っている、というのが実は一番いい状況なんです。やばいのは、ラクショーで儲かるという慢心です。もちろん、苦しいですよ。辛いです(笑)。逆にいえば、こうしたギリギリの状況にいたくないなら、株式投資はしないほうがいいですね」
フェイスブック株でしこたま儲けたSさん。その後はまた分散投資に戻り、売り買いを繰り返しながら、4年で株式投資の資産は約2倍になっているそうです。
そしてこの間に興味を持ち始めたのが、不動産でした。
(第4回に続く)
取材・文/上阪 徹
1966年、兵庫県生まれ。アパレルメーカーのワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスに。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに、雑誌や書籍などで幅広く執筆やインタビューを手がける。著書に『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)、『僕がグーグルで成長できた理由』(日本経済新聞出版)、『職業、ブックライター。』(講談社)、『成功者3000人の言葉』(飛鳥新社)、『リブセンス』(日経BP)など。


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