OCEANS × FLUX Vol.20
2021.08.21
LEISURE

最高の波と同時に訪れるサーファー渋滞を避けるためのミッドナイト・サーフィン

当記事は「FLUX」の提供記事です。元記事はこちら

サーフィンのメッカ、オアフ島。最高のコンディションが来た、でもサーフィン渋滞は避けられない……それなら、深夜に行ってみようか。ハワイのサーファーの決断は名案か?

こんな条件が揃うのを、ずいぶん前から待っていた。

パーフェクトな潮位、方向もぴったりのうねり、波に長く乗らせてくれるオフショアの風。でも、この理想的なコンディションを察知したのは自分だけではないと気付いて、コンピューターの画面の前に座る僕の興奮は少し鎮まった。

何千人とはいわないまでも、僕と同じことを考えるサーファー数百人は、サーフレポートのサブスクサービスやモバイルアプリ、Bluetoothのアラートなどで、急速に近づいてくる波の通知を受け取っているはずだ。

今度の金曜の早朝には島全体に今季最高のスウェルが来て、週末いっぱい続いてくれる。その理解がじわじわと僕の中に入ってきた。あわててカレンダーを見る。恐れていたとおり、金曜は祝日だ。

僕は椅子に身を沈めた。今度は完全に興奮が消えている。オアフのサウスショアでサーフィンをする身にとって、何よりも厄介な現実のひとつを噛みしめる。

厄介な現実、それはサーファー渋滞だ。

頭の後ろで手を組み、椅子の背に体重をあずけながら、僕はどうすれば波を確保できるか戦略を練り始めた。日の出の時間に行こうか。いや、昼食時が狙い目かもしれない。夕方まで待っていれば、皆疲れて沖に出なくなるんじゃないだろうか。いくつものシナリオが頭の中で展開する。

でも、どう考えても、1日中サーファーでごった返すことは避けられない。

友人に相談しようと電話を掛けてみる。残念ながら、友人の返事は僕の不安をかき消す情報ではなく、死刑宣告に等しかった。「日の出から日没まで、このスウェルに空きなんか見つからないだろうね」。

そのとき突然ひらめきが降ってきた。日の出から日没まで混雑しっぱなしなのは間違いないとして、それなら、日没から日の出まではどうだろう? どうすれば良いかはわかっている。暗いうちに海に入るのだ。

ブラウザを開いてネットで月齢を調べる。今夜は満月。潮も確認する。パーフェクトだ。このコンディションを楽しめる正確な時間を計算する。それからアラームを午前2時にセットした。数時間、仮眠しようと思ったのだが、興奮でどうしても目が冴える。仕方なく仮眠はあきらめて、車に荷物を積み始めた。

ビーチへ車を走らせながら、ワアヒラリッジの向こうに月が昇るのを眺める。波間ではどれくらいの視界が確保されるだろうか。頭にライトを装着するという案も浮かんだが、数秒後には、間抜けなアイディアに我ながら笑ってしまった。駐車場に着くと、そこは見事にがら空き。

一瞬でも時間を無駄にしないよう、シャワーに一番近い区画に車を停めた。胸の高鳴りでにやにやしながら、ボードを下ろし、がら空きの駐車場を走って横切る。

ここにいるのは僕だけだ。まさに、望んだとおり。

ボードにワックスも塗らず、波打ち際に走る。水平線に白波がかすかに見えた。スウェルが予想より早く来ているに違いない。数秒後、僕は闇の中に飛び込んでいた。海水の温度に驚く。思っていたよりもずっと温かい。

ブレイクしている波に向かってパドリングすると、潮がそっちへ僕を引っ張った。ストロークのたび、蛍光色に光る小さな海洋生物が、僕の後方にできる渦の中に吸い込まれていくのが見える。月は今、まっすぐ真上にあり、見上げる空に雲ひとつもない。

すぐにラインナップに到着し、セットが近づいてくるのも見えた。とっさに、この波に乗ろうとしている人がほかにいないかと見渡す。人っ子ひとりいない。

それで思わず「もらった!」と笑いながら叫んでいた。ボードの側面に手をついて立ち、視力よりも感覚を頼りにライドを始める。

日中のサーフィンでは、たいてい波だけに意識を集中するが、今は周囲のすべてに対して神経が研ぎ澄まされている。海面に映った高層ビル群を横切る自分の姿が見える。冷たい風が顔に優しく当たるのを感じる。渦巻く白波の音も聞こえる。まるで、闇が五感を拡張してくれているみたいだ。

再び波待ちをしながら、合間のわずかな時間に、この体験を僕と同じくらい喜ぶはずの人たちに思いをめぐらせる。なぜか寂しい気持ちになり始めた。

とても短い深夜の至福に浸りながら、この瞬間を共有する人が何人かいたら良かったのに、という思いがこみあげてくる。

僕は最後の波をつかまえて一気に浜に戻った。ゆっくりと砂の上を歩いていくと、若いカップルが僕を見て驚いた様子で、海に入っていたのかと尋ねた。僕は一瞬考え、答えた。「ナイトサーフィンは最高だよ」。

そして、彼らに僕からのアドバイス。「行くんなら、友達を連れて行きなよ」。

 

ジョン・フック=写真 クリフ・カポノ=文 上原裕美子=翻訳

This article is provided by “FLUX”. Click here for the original article.

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