2020.06.28
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「ドライブインフェス」は定着するのか? コロナで考案、車で楽しむ音楽フェスの可能性

当記事は、「東洋経済ONLINE」の提供記事です。元記事はこちらから。

「ドライブインフェス VOL.0 THE TEST」は栃木県栃木市岩舟町畳岡で開催された(写真:きるけ。)
「ドライブインフェス VOL.0 THE TEST」は栃木県栃木市岩舟町畳岡で開催された(写真:きるけ。)

土砂降りの6月13日の土曜日の午後。雨で地面が泥でズブズブになった栃木の石切り場跡に、やぐらが設置されていた。

そこが、その夜に開催される「ドライブインフェス」のDJブースであった。「初めてのイベントに、こんなひどい雨。本当にうまくいくのか?」という疑問を胸に、イベント開催の夕刻を待った。

ドライブインフェスとは、コロナ禍における新しい音楽イベントの提案だ。ドライブインシアターのように、ステージに向かってクルマを並べ、観客はDJブースからの音楽をクルマの中で楽しむ。音楽はステージのPAスピーカーからも発せられるが、基本的にはクルマのFMラジオを通じて提供される。

会場の一角には食事や飲食を提供するキッチンカーが用意されており、観客はスマートフォンアプリを通じて、飲食物を購入することも可能だ。ただし、飲食物のデリバリーは、人同士の接触を減らすためにイベントスタッフが代行する。

観客は、イベントの間はクルマの外に出ないことが基本で、トイレに行くときもスマートフォンアプリを使って、行列ができないように管理されるのだ。

「もともと音楽イベントをたくさんやっていましたが、コロナの影響でできなくなって、大きな夏フェスもできなくなりました。ステイホームの期間は終わりましたが、音楽フェスができないのが長く続くのは問題。そこで、ソーシャルディスタンスをとった安全な形でできる音楽イベントを考えました」

主催者の一人であるアフロマンス氏(Afro & Co.)は、発案の理由をこのように説明する。

料金は1台1万円。募集4日間で40台が集まる

昼間のひどい雨は、開場時間となった17時ごろにはやみ、少しずつ観客のクルマが会場に現れる。

クルマを見ると、関東圏がほとんどだが、仙台や名古屋、豊橋というナンバーも。今回のイベントは、テスト開催ということもあり募集はわずか50台。料金は1台につき1万円だ。

会場に集まってきた参加者のクルマ(筆者撮影)

募集は、開催日のわずか4日前からであったが、40台分以上のチケットが売れたという。ちなみに最終的にやってきた観客は45台。野外イベントで日中が大雨でありながら、ほとんどキャンセルが出なかったのも、クルマの中から楽しむこのイベントの特徴だろう。

日没直前となる薄暮の18時半、定刻通りにイベントがスタート。軽快なビートが会場に鳴り響くが、大音量ではなく会場内の前方でも普通に立ち話ができるほどであった。

「どうやってコミュニケーションをとっていいのかがわからないので、楽しくなったらライトやウインカーで応えてくれると嬉しい」とのアナウンスに、来場者のクルマはライトのパッシングで応答する。

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「クルマの中で音楽を聴くというのは、ラジオと同じです。ですから、いかにフェス感を出すのかが大切だと思います。どのように“すごく楽しい。お金を払ってもまた来たい”と思ってもらえるのか」と、アフロマンス氏。

その言葉の通り、会場にはライトや火炎放射器の演出が用意されていた。また、山を切り崩した石切り場という会場選定も、ドラマチックさを狙ったのが理由だという。

火炎放射器による演出も見られた(筆者撮影)

クルマの窓から手を伸ばす人、サンルーフを開けてルーフに腰掛ける人、ミニバンのバックドアを開け、寝転んで音楽を聴く人。それぞれのスタイルでイベントを楽しんでいるようだ。イベントの開始当初こそ、DJや観客にも戸惑いが見られたが、1時間もすると車内の人々が外から見ても、大いに楽しんでいるのがわかった。

また、そうした音楽を楽しむ人たちのクルマの間を駆け回る人の姿も見られた。注文された食べ物や飲み物を、クルマまでデリバリーするスタッフたちだ。

演者によって飲食物を観客に手渡しするパフォーマンスも行われた(筆者撮影)

「飲食をLINEでオーダーできる仕組みにしていたのですが、予想以上に注文が入り、待ち時間ができる状況になりました。ここのオペレーションは、まだまだ改善が必要だなと思っています。同時に、フェス慣れしているお客様からは、“普段のフェスでは30分くらい並んで、ライブを見逃すこともよくあるが、待ち時間もライブを観られていい”という可能性を感じるご意見もいただきました」と広報スタッフ。

イベントの終了予定は21時。実際には、15分ほど押したようだが、最後に演者も揃っての記念撮影が行われ、21時20分ごろにイベントは終了。観客はスタッフの誘導によって1台ずつ会場をあとに。50台弱という少なさもあり、クルマの退出は15分ほどでスムーズに完了した。

ドライブインフェスのメリットは見えたか?

「実は不安のほうが大きかったのですが、想像以上でした。懸念点はあげればきりがなくて、本当にうまくいくのかと……。でも、なにが成功なのかはわかりませんが、最高でした。このイベントは、絶対に次につなげたいと思います」と、去りゆく観客を前に、アフロマンス氏は興奮冷めやらぬ様子で話してくれた。

無事にテストイベントを成功させた「ドライブインフェス」。終わってみれば、メリットが数多くあることがわかった。

まず、クルマで参加するため他の人との接触がなく、感染拡大の危険が低いことが最大のメリットだ。また、クルマで移動するため、公共交通のない辺鄙な場所でも開催が可能で、小さな子どもと一緒に家族で参加するハードルも下がる。

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会場での音量が小さいのも、周囲への悪影響が少なく開催しやすさになるだろう。小雨程度であれば問題なく実施できることも、今回のイベントを通じてわかった。そして何よりも、DJのパフォーマンスに対して観客の反応があり、それが一体感を生み出せていたことが確認できた。

だが、良いところだけではなく、もちろん課題もある。もっとも気になるのが、ビジネスの根幹となる採算性だ。

今回は50台の募集だったが、1台1万円としても入場料で得られる売り上げは50万円だ(筆者撮影)

「出演料やスタッフの賃金は、もちろん発生しています。ただ、現在のところお友達価格というか、これに共感してもらっているという価格です」とアフロマンス氏。しかし、それでも50台の観客から集まる収入は、50万円にしかならない。今回のように会場を設営し、スタッフを配置すれば赤字になる。

「ベースになる費用をいかにミニマムにできるかが重要です。いわゆるドライブインシアター形式でやると、モニター代がすごく高いんですよ。たとえばモニターを1つ入れるだけで、その他の全部の費用よりも高いほどです」とアフロマンス氏。

今回は、モニターなしのセットであったが、それでも赤字だ。では、どのように事業化するのであろうか。

規模を拡大した第2弾を夏に予定

「たとえば、開催を中長期にするという考えがあります。お金がかかるのは会場の設営なので、1日やっても1週間やっても、設営費はあまり変わらないんです。海の家みたいに場所を1カ月借り切ってアーティストを日替わりにするとか、フェスの場所を作ってしまう手があります。また、より多くの人に見てもらうため、配信と組み合わせる方法もあるでしょう」とアフロマンス氏。

たとえば1万人が配信で観ていても、現場に行けるのは100台だけだとすると、それはプレミアムな体験になるはずだ。こうした、配信とリアルの”合わせ技”がビジネス面では重要になる。

現場に行くことをプレミアムな体験にするなどの戦略が必要だ(写真:きるけ。)

アフロマンス氏は、今回のテストイベントの内容をホームページで公開するつもりだという。また、7月下旬から8月上旬にかけて、規模を2~3倍に拡大しての開催も考えているそうだ。

「ドライブインフェス」という形のイベントは、採算性さえクリアできれば、全国各地に広がる可能性を感じさせるものであった。しかし、逆に言えばコロナ禍だからこそ、生まれた特殊なイベント形態でもある。もしかすると、コロナ騒動が収まれば消えてしまうものかもしれない。その儚さも、このイベント魅力と言えるだろう。

 

鈴木 ケンイチ:モータージャーナリスト
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記事提供:東洋経済ONLINE

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