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2020.06.11

あそぶ

「絶対」失敗する、「思いどおり」にいかない。それでもなぜ、キャンプに行くのか?

「今年こそはキャンプを!」。その気持ちに嘘はなくても、道具を揃えなきゃいけないだ、テントはちゃんと張れるか? など、あれこれ考えすぎて夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬になったら来年こそは!とまた誓う。
でも、あれこれ考える前に始めてみればわかるさ、この面白さ。そして、何事も初めが肝心。最初に味わった感動的な体験がその後のキャンプライフをより豊かにしていく。
 

「最初は絶対失敗する。でも笑っちゃうくらい楽しい」

アウトドアライター ホーボージュンさん
アウトドアライター ホーボージュンさん(57歳)
キャンプ歴:40年/年間キャンプ数:30回
よく行くキャンプ場:全国各地の手付かずの自然のフィールド
ペンネームの「HOBO」は英語で放浪者の意。サハラ砂漠から南米のジャングル地帯、北極圏からヒマラヤ山脈まで世界中を旅して回っている。キャンプ以外にも、パリ-ダカール・ラリーへの出場やシーカヤックでの外洋航海、6000m峰登山など、多彩なアウトドア経歴の持ち主。
おいしい料理、冷えたビール、そして仲間の笑い声。青空の下で過ごすキャンプほど素敵なものはない。今年はキャンプデビューしてみよう。満天の星の下で、ひと晩を過ごしてみよう。
でもな……。こんなことを言ってはなんだが、最初は絶対に失敗する。断言するが「絶対」だ。
テントの張り方がわからない。タープが風で吹き飛んだ。いつまでも薪に火がつかない。焚き火が爆ぜてお気に入りのダウンジャケットに穴が開いた……。次々と巻き起こるトラブルと失望。キャンプビギナーへのハードな試練はまだまだ続く。
夜中に雨が降ってきた。思いのほか風が強い。テントに変な虫がいる。地面がデコボコ。遠くで動物の鳴き声がする。外が気になってぜんぜん眠れない……。脅すわけじゃないけれど、キャンプではそんなのデフォルトだ。なんてったって大自然が相手なのだ。思いどおりにいくわけない。
僕もこれまで幾千万の失敗を繰り返してきた。すり鉢状の地形にテントを張ってしまい大雨でテントが水没してしまったり、テントのポールをどこかに忘れて、しかたなく蓑虫みたいにテント生地にくるまって寝たり……。つい先日も買ったばかりのエアマットを愛犬が噛んでパンクさせ(犬連れキャンプあるある)泣きそうになったばかりだ。
それでもキャンプは楽しい。笑っちゃうぐらい楽しい。失敗や困難が多ければ多いほど、忘れられない体験になる。

僕も失敗を重ねるうちに少々のピンチは笑って乗り越えられるようになった。今では世界のどこへ行ってもテントの最適地を見つけ出せるし、たとえテントポールがなくても木の枝やロープを駆使して建てるくらい朝飯前だ。エアマットがパンクしたらダクトテープで修理するし、焚き火の前ではダウンではなくウールのジャケットを着るようにもなった。
キャンプの楽しさは創意工夫の楽しさだ。自分の手を使い、自分の頭で考え、自分のワザで解決する楽しさだ。蛇口をひねれば水が出て、スイッチひとつでお湯が沸く都市生活にはない創造性がある。キャンプの生活は一秒一秒がクリエイティブなのだ。
初めてのキャンプに失敗は付きものだ。でもひと晩をテントで過ごし、朝を迎えたときには、それまで経験したこともない充足感を覚えるはずだ。手付かずの朝。眩しい日の光。暖かな陽射し。その光を浴びていると、まるで生まれ変わったかのように感じるだろう。夜が暗ければ暗いほど、朝の光は美しい。
さあ、キャンプに出かけよう。一秒一秒を自分のこの手で作り上げてみよう。この大変な時期をみんなで乗り切ったらさ。
 
ホーボージュン、まついただゆき、増山直樹、菅 明美、野村優歩=文


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