ベドウィンの渡辺真史さんがハマるキックボクシングの魅力
片やサタデーズ ニューヨークシティのファウンダーでもありディレクター。片やベドウィン & ザ ハートブレイカーズのデザイナー。本誌でもお馴染みである、ファッションシーンを牽引する男たちは今ともに打撃系格闘技にハマっている。
彼らにとってそれは単なるワークアウトではなく人としての成長も促す、若々しさの源泉だった。
それはまるで少年に戻ったような感覚。道場に来ると心がワクワクするんです。

長年柔術を続けてきた渡辺さんのキックボクシング人生は、第9代日本バンタム級王者・江幡塁さんと塁さんの兄である睦さんとの出会いによって幕を開けた。
「6年前、江幡兄弟と仲のいい友人に誘われて、試合を観に行ったんです。江幡さんたちの闘志溢れる試合や会場に満ちている若いエネルギーを目の当たりにして、『これはスゴイ!』と。
そして試合後にご本人たちとお会いしたところ、爽やかで礼儀正しい人柄に感動を覚えたんです。その後、江幡さんが所属する伊原道場に見学に行って入門を決めました。以後、週に1回、江幡兄弟から直接指導を受けています」。

渡辺さんが道場に通うのは仕事前の朝の9時から10時頃。ストレッチや縄跳びで体を温めてから、シャドウボクシングやミット打ち、サンドバッグ打ち、スパーリングなどをこなす。ひと通り終わる頃には全身どころか、床まで汗びっしょりだ。

キックボクシングは渡辺さんの生活に多くの恩恵をもたらした。
「全身の筋力や持久力、体幹にも効果がありますが、メンタル面のメリットも大きい。まずは仕事に対する集中力。スパーリングでは、自分を倒そうと向かってくる相手がいるわけですから、相手の一挙手一投足に全神経を集中しなくてはなりません。練習のあとは心がニュートラルになって、仕事がはかどります」。

「そして相手に向かっていく闘争心は、仕事に対する前向きな姿勢にもつながります。相手の心を読む力も培われました。試合やスパーリングでは、相手の嫌がることを見抜いて、そこを狙っていくんですが、相手が嫌がることがわかるということは、相手がしてほしいこともわかるということ。これは礼儀や心遣いにも通じるものがあり、ビジネスでも役に立っています」。

ちなみにキックボクシングを始めたのは42歳のとき。柔術でカラダを鍛えていたものの、一から格闘技を学び始めるのには相当な決意が必要だったはず。
「周囲には『今更よくやるな』と驚かれましたが、僕からすれば、正反対。『今しかチャンスはない!』という気持ちでした。だって年を取ると、肉体的にも精神的にもだんだんできることが少なくなっていくじゃないですか。
そのとき考えたのは、『キックボクシングに本気で取り組めるのはおそらく50歳半ばくらいまで。今42歳だから……うん、あと15年もあるじゃないか!』ということ。時間がもったいないから、悩んでいる暇なんてありませんでした」。

最後にキックボクシングを続ける理由を聞いた。
「もちろん格闘技なので、大切な人や自分の身を守る強さを身に付けることができます。ただ、僕の目的は強くなることではないんです。道場のみんなと無心で汗を流していると、心の底から若々しいエネルギーが湧いてくる。
それに練習をしっかり続けていれば、今まで気付かなかった発見があったり、技術の向上を実感することができる。そう、道場に来ると、まるで少年に戻ったように心がワクワクするんですよ」。


伊原道場
住所:東京都渋谷区代官山町7-8 スカーラ代官山
電話番号:03-3461-4258
www.iharadojo.com
恩田拓治=写真(東京)