オーシャンズとレジャー 37.5歳から始める大人の趣味入門 Vol.32
2017.10.30
LEISURE

地元の人から愛される味とは? 葉山・逗子の知られざる美食巡り

地元の人だけが知る、隠れた名店ってあると思う。過剰にチラシを配ったり、ネットに広告を出したりはしない。おいしいから人が集まる、そんな場所。

葉山・逗子エリアにも、実はそんな飲食店が数多くある。軽くクルマを転がすだけで、個人経営のカフェ、定食屋などが目に入る。ここには湘南の海があり、古き良き人の営みを代々受け継ぐおいしい食文化があるようだ。

採れたての地魚をリーズナブルに提供する、海沿いの定食屋

最初に訪ねたのは、葉山港の海沿いにある定食屋「あぶずり食堂」。採れたての地魚を使った料理が人気らしい。

葉山港といえば日本のヨット発祥の地としても知られている。平日の昼間にも関わらず、この日も多くの人がクルージングを楽しんでいた。

店内に入ると、「いらっしゃいませ!」と快活な声。気立てのいいお母さんといった感じの店員が多い。奥の席では、毎週同じ曜日に来るという5人家族が、和気あいあいと定食を頬張っている。

まずはサザエのつぼ焼きを注文。値段は380円と安く、都内の居酒屋なら倍は取られそう。

楊枝を身に刺すと、つるりと丸ごと飛び出してきた。歯応えはプリプリで、ワタの苦味も少ない。汁までしっかり飲み干せる。

おすすめのメニューを聞くと、日替わりランチのホタテフライ定食だとか。

サクッと分厚い衣をかじると、中からジューシーなホタテが姿を現す。素材にうるさいグルメオヤジこそぜひ食べたい。

意外にもラーメンがうまい。王道の醤油ベースだが、スープに繊細なコクがある。どこか懐かしいまろやかさも兼ね備え、何度も汁をすすってしまう。

看板メニューの煮魚定食とサザエ丼。定食屋と聞くと味つけも大雑把なイメージだが、素材の味を丁寧に引き出している。魚介との付き合い方を心得ているのはさすが漁港の食堂だ。

のんびり家族団らんしたり、朝定食を食べてからクルージングに繰り出したり……そんな日常に寄り添うお店なのだとわかる。

ステキな昭和体験を経て、次のお店へ。

 

あの石原裕次郎も愛した、“工夫”が施されたコロッケパン

葉山のコロッケパンがおいしい。そんなウワサを聞きつけ、このお店に辿り着いた。

勝手にベーカリーを想像していたら、「旭屋牛肉店」ときた。名前の通り本職は精肉店だが、惣菜や揚げ物も扱っている。葉山にゆかりの深い大スター・石原裕次郎も愛したお店らしい。

目当ての「葉山コロッケ」は、デパートの催事場でも見かける人気のご当地グルメ。これを別売りの「皮パン」に挟むのが、地元流の食べ方だとか。

ほとんどソースをかけなくても、うまい!

牛肉と豚肉の旨味がジュワッと弾け、玉ねぎとジャガイモの甘みに包まれていく。下味がしっかりついているのは、「海水浴に訪れた観光客がソースのない海岸でも食べられるように」という配慮らしい。

もうひとつの名物がこの焼豚。遠赤外線効果のある紀州備長炭を使って焼き上げ、旨味をギュッと閉じ込めたのだとか。

隣町・秋谷から生まれた「新倉さんちの手づくりジャム」も。無添加・自然栽培にこだわって作られており、思いやりのある地域性が透けて見えるようだ。

この日も店内は賑わっていた。子供の誕生日には葉山牛を買って、ローストビーフに仕上げる……なんて葉山の日常を夢想してしまう。

 

地元で愛される、端正な蕎麦懐石の名店

最後に訪ねたのは、蕎麦懐石の名店「蕎麦恵土」。住宅街の奥、少し隠れた場所にあるが、道行く人に聞いてみたら快く案内してくれた。

古民家をリノベーションした風情豊かな佇まい。地元の人は祝いごとがあるとこのお店に出向き、家族みんなでご馳走をいただくという。

注文できるのは「そば懐石」のみ。前菜、蕎麦、デザートの3品から構成される。夜には品数が追加され、コース料理になる。

まずは前菜。蕎麦豆腐に土佐酢のゼリーを乗せ、焼きなすと旬のイチジク、シソの花を添えた端正な料理が運ばれてくる。

濃厚な蕎麦豆腐と、さっぱりとしたジュレが好相性。焼きなすの苦味、イチジクの甘みがアクセントになり、フレンチ顔負けの繊細な味わいを実現している。

そしてお待ちかね、手挽き蕎麦がやってきた。

つゆをくぐらせず、蕎麦だけで食べてもうまい。

「一般的な蕎麦屋では、収穫したての『新そば』を使うことが多い。でも当店では、茨城県から有機栽培の玄蕎麦を仕入れ、1年間じっくり熟成させてから挽いています」

店主の恵土 靖さんはこう語る。熟成させると風味が増すのは、肉やワインだけでなく蕎麦も同じらしい。

「また、そば粉を手で挽くことで風味がさらに引き立ちます。電動式の石臼で挽くと、蕎麦粉は均一なサイズになる。手挽きなら不規則に仕上がるため、微妙な味の変化が生まれるんです」

デザートには秋らしく、栗と和三盆のぜんざいを。濃厚なのにくどさはなく、蕎麦の余韻を打ち消さない絶妙な甘さ。ごちそうさまでした。

食事を終えてもすぐに帰る気がしない。この昭和の名残ある空間で、知らぬ間に葉山ののどかさに身を委ねてしまったのかも知れない。こうして3つの名店を巡ったが、ここに暮らす人は本当に穏やかで親しみやすい。

「そうなんですよね」と答えてくれた恵土さんは、11年前まで都内で修行を積んでいたらしい。

「葉山に移住してきて、『お金を儲けよう』って思いがなくなりました。東京にいた頃は、お店の経営や生活費にもお金がかかるし、周りもガツガツした空気があった。それが今では、『生活に困らなければいい』くらいのスタンスで(笑)。仕事の余暇を見つけては、マイボードを持ってサーフィンに繰り出す日々ですよ」

なんだか憧れる生活だな……。葉山に訪れた際には、地元のグルメに舌鼓を打って欲しい。そこではきっと、不思議と心穏やかになる「葉山マジック」にも触れられることだろう。

あぶずり食堂
住所:神奈川県三浦郡葉山町堀内35
電話番号:046–875–1969
営業:10:30〜14:30(月〜金)、8:30〜15:30(土日祝)

旭屋牛肉店
住所:神奈川県三浦郡葉山町堀内898
電話番号:046–875–0024
営業:9:30〜19:00
www.hayama-asahiya.com/

蕎麦恵土
住所:神奈川県三浦郡葉山町堀内870-7
電話番号:046–876–3625
営業:12:00〜15:00(昼)、18:00〜21:00(夜)
定休日:木曜日、第一・第三金曜日
http://soba-edo.com/

取材・文=佐藤宇紘
撮影=森カズシゲ

# 葉山
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