“肩書”を超えて多岐にわたった活動をする、オーシャンズ世代の熊谷隆志さんが手掛ける「ネサーンス」。
自分の私服にしたいものだけを。
そのモノづくりへの姿勢や生み出されたプロダクトは、まさに日ごろ俺たちが確立したいと願ってやまない“自分だけのスタイル”だ。そんなネサーンスの服を俺たちも私服にするべく、少し詳しく勉強してみよう。
「ネサーンス」とは?
2011年秋冬に始動以来、今春夏のコレクションで12シーズン目となるネサーンス。スタイリスト、フォトグラファー、ショップディレクターなど、さまざまな視点から数多の服と出会ってきた熊谷隆志さんのプライベートブランドだ。
「GDC」「ヴェンチュラ」といった熊谷さんがこれまでに手掛けてきたブランドとの違いは、年齢や趣向といった「ターゲットマーケット」をあえて設定しない、極私的なものづくり、ということ。彼の人生を通して蓄積されたインスピレーションを「自然な形や方法で服という形態にアウトプットする」というプロセスを大切にしている。
ネサーンスはデビュー以来、マイペースに成長。無理に拡大するよりも、彼の“ハート”が隅々まで行き渡るような、正しいサイズ感を維持しながら続けていくことが大事、とのこと。
トレンドは関係ない。好きだから、作る。
熊谷さんのお気に入りであるチャイナジャケットは、ここ数シーズン、異なる素材で作る定番品。今季は刺し子の生地を使用。
左●少し前に旅したメキシコ・オアハカで出会った人々や生活、文化、ストリートの匂い、風景、すべてに刺激を受け、今季のネサーンスは、旅の思い出が随所に反映されたコレクションを展開。
右●ノンシャランなフード付きのインディゴスウェットジャケットは、どんな服にも合わせやすいマルチプレーヤー。コーディネイトしたカモフラージュ柄のスウェットショーツは、映画に出てくるハンターっぽい雰囲気に影響を受けて作ったもの。
ネサーンスを知る10のキーワード
1. Workwear
ワークウェアの魅力はやはり、仕事着ならではのシンプルなデザインと、それに紐づく機能性。ネサーンスにおいて、欠かすことのできない重要な要素。
2. Comfort
着ていてストレスになるようなものはなるべく避けたい。ネサーンスの服は、触感が気持ちいい。「身体の一部」と思うこともしばしば。
3. MILITARY
定番だけど、行きすぎたヴィンテージやただの焼き直しはあまり好きじゃない。ミリタリーウェアの大人流解釈を。
4. Vintage & Remakeファッションに目覚めた10代から、40代半ばとなった今まで、熊谷さんのファッションの根幹をなしているのはヴィンテージウェア。珍しいヴィンテージに出会うとつい手が伸びてしまうそう。
5. Genderless
ネサーンスは、女性にも優しい。基本的には男性向けブランドだけど、女性たちからの支持も厚く、毎シーズン、彼女たちに向けたサイズも用意している。妻やガールフレンドと共有して、もっと自由にファッションを楽しめる。
6. Hobby今、いちばん趣味にしたいことを服に。このジャケットとインナーのベストは、古いフィッシャーマンウェアに着想を得たもの。特有の機能美が備わる特定の目的のために作られた服にいつも心惹かれるのだ。
7. OCEANやっぱりどうしたって海が好きだ。サーフィンが生活の中の一部にある熊谷さんにとって、海の香りがするアイテムは欠かせないのだ。
8. Collaboration自分たちで作れない、良いメーカーとの出会い。気になる専門ブランドとコラボレーションできるのもネサーンスの楽しみのひとつ。
9. COLOR
オッサンだもの、色でいろいろ遊ばなきゃ。色に対して保守的になる大人が多いが、大人こそ遊ぶべき。あまり考えすぎず、感性の赴くままに取り入れよう。
10. Day OFF
休日をとにかく有意義に過ごしたい。せっかくの休日を無駄にしたくない。身に纏う服も、着心地のいいものがいい。けれど、いかにも「休日のオッサン」みたいに、見られることに無頓着な格好だけは、絶対に避けるべき。
ネサーンスには(熊谷さん自身のように)決められたカテゴリに分類されることをするりとかわしてしまう軽やかさがある。
熊谷さん曰く、「昔も今も、もっぱら自己流。たくさんインプットしてきたせいか、最近はトレンドが気にならなくなりました。世界は情報であふれているけれど、正解を教えてくれる教科書は存在しない。ネサーンスが、そんな教科書を必要としない人たちに『着たい』と思ってもらえる服であればいいなと思います」
大いに共感するか、自分にはまだ早いと思うか。いずれにせよ、まずは彼の思いが詰まった服を手に取って、彼の世界に触れてみるところから始めたい。
熊谷隆志=写真・スタイリング ANNA.(SHIMA)=ヘアメイク