37.5歳からの愉悦 Vol.182
2021.02.11
FOOD&DRINK

三鷹の居酒屋で、母の影響を受けた看板娘が作業療法の勉強をしていた

「看板娘という名の愉悦」とは……

三鷹駅の南口を出て、中央通りをずんずん進む。

道の両側にはさまざまな商店が並ぶ。

連雀通りに突き当たると、さらに左折。目指す「マルカツサカバ」に到着した。

「マルカツサカバ」
暖かい日には嬉しいテラス席も。

のんびり歩いて20分弱。そう、駅から遠いのだ。しかし、それが苦にならない魅力がこの店にはある。

店頭には常連さんがくれたというコットンフラワー。

現在は週末と祝日のみ、16時〜20時の時短営業だ。

黒板には、これまた常連さんの筆によるキュートなイラスト。

右隣は数カ月前にオープンしたというカフェ。

アマビエと謎のオブジェが存在感を放つ。

そして、上階は自家焙煎の珈琲店「松井商店」。

喫茶のほか、豆の販売も行っている。

何しろ、目が離せない一角だ。

「マルカツサカバ」の店内には看板娘の姿が見えた。

席に着いてメニューを拝見。「居酒屋ファミリーレストラン」を謳うだけあって、老若男女が楽しめるお酒と料理が揃う。

「松井商店」のコーヒーを使った「松井珈琲ハイ」が気になる。

ここで看板娘いわく、「彩りがきれいな『生ピーマンサワー』も人気ですよ」。500円。よし、それをいただこう。

NEXT PAGE /

看板娘、登場

「お待たせしました〜」。

大学で作業療法を学ぶ20歳の看板娘、咲良(さくら)さん。勧められるまま、料理も注文します。

はるばる歩く価値があるラインナップ。

まず、「生ピーマンサワー」はシャキシャキの冷凍ピーマンが入っており、味噌につければアテにもなる。バベルの塔のような「丸カツ」(800円)はオニオンリングに豚バラを巻いて揚げたもの。

特筆すべきは「八丈島くさやピザ」(500円)。くさやがアンチョビのようなハーモニーを演出する。毎日変わるお通し、今日は「春菊のあん肝和え」(200円)だった。

以前、アルバイトをしていた子が八丈島出身だったことから開発されたメニュー。

咲良さんは長野県伊那市の近く、宮田村で生まれ育った。

「千畳敷カールの麓辺りです。小さい頃は友達と、近くの田んぼでおたまじゃくしを捕まえたり、泥団子を作ったり、近所で鬼ごっこしたり、そんな生活でした」。

高校時代に通学で利用していた飯田線は1時間に1本。

3歳から村内のダンス教室に通い始めた。そして、ダンス熱は現在に至るまで続いている。

「全然覚えてない」という兄との2ショット。

高校でもダンス部に所属し、3年生で部長になる。

「部活がいちばんの思い出ですね。顧問の唐沢先生が部への愛がめっちゃある人で、私たちは『ダンス部のパパ』と呼んでいました(笑)。集合写真も先生が中心のものが多いんです」。

高3の文化祭では安室奈美恵の『Hero』に合わせたダンスを披露。

その後、理学療法士だったお母さんの影響を受け、医療系の大学に入学した。作業療法学科なので、お母さんと同じリハビリ系の分野だ。

「母はよく、『やりがいがあるのよ』って仕事の話を楽しそうにしていました。あと、小3のときにお腹の病気で手術を受けて入退院を繰り返したんですが、病院のスタッフさんたちが学校の勉強を見てくださったりと、ずいぶん支えてもらいました。この体験も進路を決める一因となっています」。

国家試験や臨床での参考書。
NEXT PAGE /

「マルカツサカバ」では一昨年の5月から働いている。たまたま店頭の求人告知を見て応募したという。

「とはいえ、お酒のことはまったくわからないので最初は大変でした。ハイボールって何?という次元で。お客さんによって焼酎の濃さの好みがあるんですが、別の人に濃いのを出して驚かれたりしました(笑)」。

丑年仕様のネイルはバレンタインが近いので、まだらを茶色にした。

「ここは天国みたいに楽しい職場です。オーナーも先輩もお客さんも、みんないい人。いい店でバイトできてるなとつくづく思います」。

一方で、オーナーの佐藤 勝さん(48歳)は咲良さんについて、こう評する。

「見た目はすごくかわいらしいんですが、お客さんに褒められたら変なガッツポーズをするとか面白い一面もあります。あと、うちのバイトのなかではいちばんの酒豪です(笑)」。

「ほら、あのガッツポーズやってよ」「これですか?」。

ちなみに、佐藤さんは高校球児。シードの強豪校で4番打者を張っていた。そのため、この店には当時のチームメイトや地域の少年野球関連の人々が集う。

高校時代のチームメイトの息子は日大三高で甲子園準優勝を果たした。

「もともとは北口で居酒屋をやっていたんですが、上のコーヒー店のオーナーが当時からのお客さんでして。商店会の会長でもある彼から誘われて、ここに移転したんです」。

常連さん同士も非常に仲が良く、コロナ以前は頻繁に飲み会を開いたり、旅行に行ったりしていたそうだ。

思い出のアルバムも大量にある。

というわけで、駅から遠いものの人を惹きつけて止まない居酒屋を堪能した。最後に読者へのメッセージをお願いします。

春になってコロナが終息していたら、テラス席で乾杯したい。

 

【取材協力】
マルカツサカバ
住所:東京都三鷹市下連雀2-16-10
電話番号:0422-70-5440
www.instagram.com/marukatusakaba/

「看板娘という名の愉悦」Vol.139
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
上に戻る

連載「看板娘という名の愉悦」をもっと読む

石原たきび=取材・文

# マルカツサカバ# 三鷹# 看板娘
更に読み込む