37.5歳からの愉悦 Vol.166
2020.10.22
FOOD&DRINK

川崎の山芋居酒屋で、看板娘が「水族館で働く」という夢を追いかけていた

「看板娘という名の愉悦」とは……

今回降り立ったのはJR川崎駅。1日平均で約40万人の乗降客数を誇る巨大ターミナル駅である。

今年7月には駅前の商業施設に水族館がオープンしたようだ。これは、のちの伏線となる。

駅前商業施設内の水族館は日本初。

東口を出て歩くこと5分。目指す「山芋の多い料理店」に着いた。

「山芋の多い料理店」
なんと素晴らしいネーミングセンスだろう。

文字通り、産地直送の山芋料理がメインの居酒屋で、西葛西と麻布十番にも姉妹店がある。

ハロウィーン仕様の店内には看板娘の姿。

メニューには『注文の多い料理店』にも出てくる注意書きのオマージュ。どこまでも気が利いている。

ドリンクは「自然薯ビール」(900円)、これで決まりだ。

川崎のティーティーブルワリーと共同開発したビールで、自然薯の茶葉から抽出した成分を製造過程で入れることによって風味やコクが移るという。

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看板娘、登場

「お待たせしました〜」。

今回の看板娘は雅(みやび)さん。川崎生まれ川崎育ち、21歳の大学生だ。

続いてフードメニューを拝見。

「三種のとろろ食べ比べ」(720円)、これは外せない。さらに、雅さんと相談したうえで、「長芋豚巻ステーキ」(600円)といちばん人気の「明太とろろいそべ揚げ」(2個で720円)も注文した。

「山芋の多い」というか「山芋尽くし」になった。

食べ比べは右上から時計回りに大和芋、自然薯、長芋。長芋は水分が多いため、食感が残るように粗くすっている。

それぞれに個性がある。
店の軒先に鎮座する現物。

これらの山芋は契約農家から定期的に届く。

とくに北海道の中澤さんとは長い付き合いなんだそうだ。

驚いたのは自然薯の粘り。箸でそのまま持ち上げられる。

皮ごとすっているせいもあるのだろうか。

また、ステーキは蒸した長芋に豚バラを巻いて焼き上げ、バターとニンニク醤油のソースで煮詰める。

磯辺揚げは明太子に大和芋のとろろをかけて揚げたものを自家製のめんつゆでいただく。

美しい断面。

雅さんは求人サイトでこの店の存在を知った。

「まず、お店の名前に惹かれました。実際に訪れたらめっちゃ雰囲気がいいし、山芋も好きだから働きたいなと。賄いはいろんなメニューが出ますが、ご飯には必ずとろろをかけます(笑)」。

店長の島田祐規さん(33歳)は雅さんのことを高く評価している。

「仕事が早くて的確。お客様が困っていたらすぐに気付いたりと、全体をよく見ていますね。新人の子への教え方も丁寧だし、近い将来はお店を担うリーダーになってもらうつもりです」。

「リーダーよろしくね」。
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そんな雅さんの家は父、母、姉、兄が熱狂的な横浜DeNAベイスターズファン。小さい頃からシーズン中は常に野球中継が流れていたそうだ。

「私は熱狂的ってほどではありませんが、選手のなかではピッチャーの山崎康晃が好き。背が小さめでベビーフェイスだから」。

一家揃って野球観戦。

中学ではソフトボール部に所属。厳しい部活と勉強の両立は大変だったが、なんとか第一志望の高校に合格した。

「私からしたら偏差値が高めでチャレンジでした。でも、入学したら思ってた高校生活と違う。昼休みはみんな揃って屋上でお弁当を食べて、同級生や先輩との色恋沙汰があったり、そういうイメージしてたことがまったくない。屋上は入ることすらできませんでした(笑)」。

クラスメイトに誘われてハンドボール部に入部。

現在、大学では海洋生物について学んでいる。幼稚園のときから抱いていた「水族館で働く」という夢を追いかけている形だ。あれ、駅前に水族館がオープンしてましたよ。

「あっ、『カワスイ』ですね。まだ行けてないんですよ。もし就職できたら、地元の川崎で夢を叶えられますね(笑)」。

いちばん好きな海洋生物はラッコだ。

「鳥羽水族館のツイッターをフォローしていて、アップされる動画に癒されてます。流されないようにワカメとかを体に巻きつけて寝るとか、普通にかわいいですよね」。

また、食べ物のなかで世界一好きなのは餃子。自分では料理をしないので母親に作ってもらうか外食するかの二択だ。そんな雅さんにとって“人生ベスト餃子”を出す店は大田区・武蔵新田の駅前にある「虎」という中華料理屋。

ドラマ『SPEC』のロケ地としても使用された。

「お菓子だとラムネが大好きです。クッピーラムネとか緑の容器に入ったラムネとか。今でも毎日のように食べています」。

1973年に発売開始されたロングセラー。

また、今ハマっているのは愛知県岡崎市に拠点を置く6人組YouTuberグループ「東海オンエア」。

スマホの背面には戦国武将に扮したメンバーのシール。

川崎駅東口にかつてあった面白スポットも教えてくれた。

「香港のクーロン城を模して、“廃墟ゲーセン”といわれていた『ウェアハウス川崎店』です。ずっと気になっていたんですが、去年の11月に閉店すると聞いて駆け込みで行ってきました。インパクトありすぎて、今でもLINEの背景画像にしています」。

突然の閉店はファンにとって寝耳に水だったようだ。

というわけで、水族館で働くために日々勉強に励む雅さん。海洋保全に対する意識も高く、スーパーやコンビニでは絶対に袋をもらわない。春巻きの皮を手に持って家に帰ったときは「ちょっと恥ずかしかった」そうだ。

最後に読者へのメッセージをお願いします。

ラッコの表情が幸せそう。

 

【取材協力】
山芋の多い料理店 川崎
住所:神奈川県川崎市川崎区砂子2-10-7
電話番号:044-201-8687
https://tororo.owst.jp

「看板娘という名の愉悦」Vol.123
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

# 山芋の多い料理店# 川崎# 看板娘
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