37.5歳からの愉悦 Vol.158
2020.08.20
FOOD&DRINK

新川のバルで、声優志望の看板娘がコロナ自粛中にテイクアウトの研究をしていた

「看板娘という名の愉悦」とは……

中央区新川。隅田川、日本橋川、亀島川に囲まれたエリアで「霊岸島」とも呼ばれ、現在はタワーマンションとオフィスビルが立ち並ぶ。そんな街にも看板娘はいた。

日比谷線の八丁堀駅を出て亀島川に架かる亀島橋を渡る。
日比谷線の八丁堀駅を出て亀島川に架かる亀島橋を渡る。

店の名は「ぶーみん Vinum 新川バル」。「ぶーみん」は池袋で人気の豚肉料理店。「Vinum」はワインの語源となった言葉。つまりは、ワインと肉料理の競演が楽しめる新店舗だ。

店の名は「ぶーみん Vinum 新川バル」。「ぶーみん」は池袋で人気の豚肉料理店。
ビジネスマンや家族連れで賑わう人気店。

店内を覗くと、看板娘の姿が見えた。

店長と何やら打ち合わせをしている。

席についてドリンクメニューを拝見。ワインはもちろん充実していたが、クラフトジンにも力を入れているようだ。

「こだわりのジントニック」が気になる。

看板娘にお勧めを聞くと、自身はお酒を飲めないらしく店長に相談している。

店長の答えは「ライターさんのイメージで選んだら?」。これは新しい展開だ。楽しみにしていると、やがて“それ”は運ばれてきた。

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看板娘、登場

「お待たせしました〜!」。

正解。「季の美」という京都のクラフトジンで作ったジントニック(1000円)を選んでくれた。

「これは特別なおすすめジンで、今日は普段あまりできない特別感のある時間を過ごせるかなと思って。柚の香りが特徴で、自分の名前との共通点もあったのでセレクトしました」。

そう、こちらは船橋市出身のゆづさん(21歳)。「ぶーみん」グループの系列店で働きながら声優を目指している。

日本初、ジン専門の京都蒸溜所が造るクラフトジン。

玉露、柚子、檜、山椒など日本ならではの素材を積極的に取り入れ、京都・伏見の伏流水を使用するというこだわりよう。メニューにも書いてあったが、まさにイギリスと日本の伝統を融合させたプレミアムな1本だ。

「グッジョブ」と言わんばかりの店長・原口健史郎さん。

カウンターでは常連客同士で楽しそうに盛り上がっている。ここの看板娘はいかがですか?

ひとりの男性が「勤勉で美しい」と答えると、もうひとりの男性は「いつもやさしく話しかけてくれる。あと、水をくれるタイミングが素晴らしい」。皆さん、よく見ていらっしゃる。

「本人を前にして言うのもねえ」と笑いながらも教えてくれた。

料理は店長のお任せにしたところ、えらい騒ぎになった。

美味しいに決まっている3品プラスバゲット。

「青森県産黒毛和牛 ランイチのロースト」(2200円)は30日間の熟成で旨味やコクがぎゅっと詰まっている。「ランイチ」とは「ランプとイチボ」の総称で、脂が少ないのに肉質が柔らかいそうだ。

「エビとマッシュルームのアヒージョ」は880円、バゲット400円だ。ゆづさんが解説する。

「このアヒージョはスパイスが効いていて、バケットにとっても合います。ホワイトマッシュルームとエビの食感も楽しんでいただければ」。

彩り豊かな「前菜の盛り合わせ」(780円)は3種類のハム、ピクルス、キャロットラペ、ラタトゥイユ、パルミジャーノ・レッジャーノチーズなどが乗っている。

これらとは別に「おひとりさま専用メニュー」も。
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さて、ゆづさんは船橋市で自然に囲まれて育つ。中2のときに胃がんで亡くなったお父さんはお笑い芸人、今も大の仲良しのお母さんはCMなどのモデルと、両親ともに芸能関係の仕事をしていた。その影響もあり、漠然と「ドラマとかに出る仕事をしたい」と思うようになったという。

「お母さんが好きで、実家ではペットとして鶏を飼っています。写真の奥の子は死んじゃいましたが……」。

ツクシが群生しているが「食べ物としては意識していない」とのこと。

さらに、おばあちゃんの家で飼い始めた犬は、小学生のゆづさんにとって格好の遊び相手。庭でボールを投げたりして親交を深めたそうだ。

1年前に亡くなったモコちゃん。

お父さんは亡くなる前に知り合いの養成所に話を付けておいてくれたそうで、ゆづさんは中2から声優の養成所に通い始める。

「何もわからずに入所したら声優の養成所でした(笑)。メインはアフレコと歌のレッスン。学校以外の知らない世界に触れられて楽しかったです」。

高3の「ボーカルコース卒業公演」で歌うゆづさん。

高校卒業後は専門学校の「東京スイーツ&カフェ」に入学。ここのカフェクラスで料理やスイーツなどを本格的に学んだ。

専門学校時代はカフェでアルバイト。

そのような20年間を経て、昨年4月から「ぶーみん」グループに入社した。

成人式の日にお母さんと撮った記念写真。

コロナの影響で営業を自粛していた時期は、さまざまな業態の飲食店を巡って自分なりに研究したという。

「お給料をいただいていたので、それぐらいはしないと思って。テイクアウトを始めるときもほかのお店の看板やシステムを参考にしました」。

テイクアウトのパッケージにメッセージカードが入っている店もあり、それもさっそく導入した。

これら3つのボードもすべてゆづさん作。

「お気軽にお声がけ下さい」のひと言があるとないとでは、ずいぶん印象も異なる。ちなみに、添えられたイラストはウサギかと思いきや「豚のつもりで描きました」。まあ、そうだろう。

店頭にはなぜか自転車の空気入れ。

「この辺りは自転車を使う方が多いので、前の店長がサービスの一環として始めたものです。空気を入れるついでに、お店も見てもらえればと」。

店の入り口に置かれたクラフトジンのボトルが目印。

新川は3つの川に囲まれた島だ。どちらへ向かうにしても川を渡る。その風景は昼も夜も美しい。

「働き始めた頃は、よく立ち止まって眺めていました。千葉ではなかなか見られない景色なので(笑)」。

こちらは隅田川にかかる中央大橋からの夜景。

ゆづさんは声優になる夢をまだ諦めていない。今も事務所に所属し、週1回のレッスンを受け、たまに行われるオーディションに臨んでいる。

いつかチャンスが来ることを祈りつつ、読者へのメッセージも書いてもらいました。

柚子、ワイン、豚のイラスト付き。

 

【取材協力】
ぶーみん Vinum 新川バル
住所:東京都中央区新川2-21-9 第二田村ビル1F
電話番号:03-3206-5977
https://www.facebook.com/ShinkawaBar/

 

「看板娘という名の愉悦」Vol.115
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

# ぶーみん Vinum 新川バル# 看板娘
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