永福町のスタンドバーで、ひよっこバーテン看板娘に癒された
看板娘という名の愉悦 Vol.70
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
渋谷と吉祥寺を結ぶ京王井の頭線。そのちょうど真ん中にあるのが永福町駅だ。なんとも縁起のいい町名は、当地にある永福寺に由来する。
そんな街にも看板娘はいた。

急行が停まるうえに、新宿や下北沢といった人気タウンにもアクセスしやすいとあって、家賃相場もそこそこ高い。

駅から歩くこと3分。「STAND(スタンド)永福町店」に着いた。2012年にオープンしたスタンドバーだ。

店内は狭いがお酒の種類は充実している。

看板娘が好んで飲むというイタリアの白ワイン、「カンティネ・ラヴォラータ」(600円)を注文した。

「私は元々このお店の常連だったんですが、白ワインは当時よく飲んでいました。お酒は弱いけど、ワインなら5、6杯いけます」
看板娘、登場

こちらは、ぴよさん(27歳)。本名は詩織だが、酒場では高校時代のニックネームを名乗る。
店にはオーナーの藤島さんもいた。

ぴよさんについては「人懐こいし癒し系キャラ。お客さんからの評判も上々です」と賞賛する。ちなみに、ここは以前ハンコ屋さんだったそうだ。藤島さんに改装前の写真を見せてもらった。


「店を畳んでからずいぶん長い間空き家だったみたいで、中はかなり荒れ果てていましたね」

さて、ぴよさんは新潟県の長岡生まれ。中学時代は吹奏楽部でサックスを吹いていた。
「去年、14万円ぐらいで中古のサックスを買ったんです。家では吹けないので、近くの和田堀公園で練習しています」

ドライな性格で、高校生時代もいわゆる女子グループには属さなかったそうだ。

「長岡はなぜかお盆に成人式をやるので、振袖は着ません」
マイブームはカレーの食べ歩き。最近のヒットは下北沢「旧ヤム邸 シモキタ荘」の和だしカレーだという。

服飾系の専門学校を卒業後、アパレル業界に入ったが、丁寧に接客したいという思いと売り上げノルマの板挟みになる。
「当時は仕事帰りにこのお店に寄って、オーナーや常連さんによく愚痴を聞いてもらっていました。その白ワインは社会人1年生時代の思い出のお酒なんです」
性格はドライだが、涙もろい一面もある。専門学校時代は戸田公園のカフェダイニングで働いていたが、アパレルの仕事を辞めた直後に当時の同僚から誕生日を祝ってもらった。その時の写真が下である。

バーテンダーの修行中だというぴよさん。せっかくなので2杯目はカクテルを作ってもらおう。「OCEANS」をお願いします。

「ホワイトラムは南国の海のイメージで、リキュールのマリブでちょっとチャラいおじさんの雰囲気を出しました」
ちょっとチャラい……。お値段600円と安いし、まあいいか。でも、海にしてはまったく青くないですよ。

ここで、常連の紳士が来店。「いつも1杯お付き合いしていただいているんです」と、ぴよさんに生ビールを振る舞う。

雑談をする中で、駅前の「大勝軒」の話になった。
「私が学生時代の50年前にはすでにありましたから。下宿で友達と飲んでいて氷が切れたときは大勝軒に行って『すみません、熱が出ちゃって』と言うと氷をタダでくれたんです」
コンビニなどはない時代である。大勝軒、見直した。

耳の中にもピアスがあるが、いろいろと不便ではないのだろうか。
「全然大丈夫ですよ。耳掻きもできるし、イヤホンも入ります」
締めの1杯は、ずっと気になっていた白霧島。これを置いている店は珍しい。オーナー、藤島さんの趣味だそうだ。

今回の看板娘は確固たる仕事哲学を持っているとお見受けした。
「ぴよ」という名前の通り、バーテンダーとしてはまだまだひよっこかもしれないが、近い将来、立派な鶏になって数多くの酒飲みを癒してくれそうだ。

【取材協力】
スタンド 永福町店
住所:東京都杉並区和泉3-12-8
電話:050-1035-7435
www.instagram.com/stand_link/
石原たきび=取材・文