神保町のドラム缶立ち飲み屋で、看板娘が真剣にノリで働いていた
看板娘という名の愉悦 Vol.65
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
神保町といえば古本にカレーというイメージが強い。しかし、近年では居酒屋戦争も激化しているのだ。
今回訪れたのは昨年9月にオープンした立ち飲み居酒屋「ドラム缶 神保町店」。神保町駅、水道橋駅のどちらからも徒歩5分程度で到着する。

千代田区に本社を置くドラムカンパニーは「のれん分け」という形式で独立開業を支援している。1号店は日本橋茅場町店で、神保町店は12号店となる。

階段を上がると、意外にも広々としたスペース。「ドラム缶」史上、店舗面積は最大らしい。

ドリンクメニューを見ると、とにかく安いうえに種類も多い。

横浜出身の看板娘にオススメを聞くと「ガリチューハイ」(250円)とのこと。いただきます。

ガリの鮮やかなピンクがインスタ映えしそうだ。なお、こちらの碧(あおい)さんは24歳にして店長なのである。
「ガリチューハイは私がここで働くことになったきっかけを作ったお酒。ガリを食べながら飲んでもいいし、ガリを残してチューハイだけ足してもいいです」
お次はフード。ドリンク同様、バリエーションが豊富で実にそそられるラインナップだ。

迷った末に、前髪を自分で切り過ぎたという碧さんのお任せで2品いただくことにした。

オーナー特製の「甘蕉(バナナ)キーマカレー」(200円)、クラッカー(100円)、そして「厚切りベーコンステーキ」ハーフ(400円)。締めて950円である。
「厚切りベーコンは小江戸川越の『はやしハム』さんから直接取り寄せているもので、神保町店限定メニュー。厚さは22mmです」

オーナーの菊池さんは元々企画・コンサルティングなどの事業を行う会社を営んでいたが、「ドラム缶」ののれん分けシステムに興味を持つ。

時は1年前にさかのぼる。菊池さんは下見を兼ねて社員とともに「ドラム缶」の神田店を訪れた。そこにちょうど居合わせたのがリクルートスーツを着た碧さんだ。
「高校を卒業して保育の専門学校に入ったんですが、将来性がないなと感じて中退。カラオケ店でアルバイトを始めました」。
その勤務時にちょっとした“事件”が起きた。
「風邪を引いて辛そうなバイトの男の子が出勤してきたので帰そうとしたら、店長に『お前に何の権限があるんだ』と言われて……。『この人より絶対に稼いでやる』と誓いました」。

その後、就活中にふらっと入ったのが「ドラム缶」神田店だ。
「みんなそれぞれの仕事論を熱く語っていて、いいなあと思いました。気付いたら一緒に飲んでいて、ガリチューハイを何杯もお代わりしながら私もヒートアップしていったんです(笑)」。

菊池さんからは「ちょうど店長を探しているんだよ。やらない?」と誘われる。飲食の経験はゼロだったが、自分らしく働けそうだと感じた。何社か決まっていた内定を蹴って現在に至る。
菊池さんいわく、「とにかく元気だし、いい意味で適当。ノリで生きているところが面白いなと思って。でも、真剣なんですよね」。
なお、店ではさまざまなイベントを企画している。さらに、店内のそこかしこに菊池さんと碧さんの個性が垣間見えるのも単なるチェーンとは異なる点だ。


好きなCDを持ってきて勝手にかけるのもOK。そのまま置いて帰る人も多いとか。

常連さんからも頻繁に声がかかる。その中の二人組に碧さんの印象を聞くと「いつも明るいし、異常に親しみやすい」「何も言わないのにホッピーが出てくるのがうれしい」。

確かに、なんというか「見ていて飽きない」のである。

昨年のクリスマスパーティーではツリーのコスプレをした。

日が暮れて店内の賑わいも増してきた。ふと見ると、ビール瓶で遊んでいる男性がいる。聞けば、「台湾で教えてもらったビール瓶釣りゲーム」とのこと。

楽しい雰囲気に後ろ髪を引かれながら碧さんに「お会計をお願いします」と言う。
「あ、今月18日の土曜日からは入場無料のマンスリーディスコイベントをやるので、ぜひ来てください。ミラーボールを回して面白い感じになると思いますよ」

最後に読者へのメッセージをどうぞ。

【取材協力】
立ち飲み居酒屋 ドラム缶 神保町店
住所:東京都千代田区西神田2-1-12 梅澤ビル2F
電話:03-6261-7550
https://twitter.com/drumkanjbc
石原たきび=取材・文