37.5歳からの愉悦 Vol.59
2018.09.13
FOOD&DRINK

下北沢のスナックで、ネコ思いの看板娘に恩返しをしたかった

看板娘という名の愉悦 Vol.31
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

「若者の街」と称されることが多い下北沢。2013年の駅ホーム地下化に伴い、エスカレーターを上がって街に出るようになった。これが、いまだに馴染めない。

久しぶりに来たら南口が消えていて驚いた。
久しぶりに来たら南口が消えていて驚いた。

駅を出て本多劇場の先の交差点を左折。さらに歩くと、ザ・昭和といった風情の路地が現れる。今回、訪れたのはスナック「ニューサニー」。

文句なしの外観。
文句なしの外観。

扉を開けると、これまた文句なしのスナックだった。

看板娘らしき女性の姿も見える。
看板娘らしき女性の姿も見える。

「シモキタのキューピッド」という異名を持つママいわく、「オープンは1974年。私は20歳ぐらいのときに隣にあったスナック『サニー』でバイトしてたんだけど、ここが空くっていうから親に敷金を借りて独立したの」。

23歳の決断である。新しい「サニー」だから「ニューサニー」。わかりやすい。

メ「ニューサニー」という言葉遊びかと思ったら偶然のようだ。
メ「ニューサニー」という言葉遊びかと思ったら偶然のようだ。

ママにセット料金を聞くと、「本当は3000円だけど、あんまり取るのは申し訳ないから気分次第では2000円ね」。

さて、看板娘の菜央さん(23歳)にご登場いただこう。彼女が好きだというレモンサワーを注文した。

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お待たせしました〜。
お待たせしました〜。
レモンサワーにママお手製のお通しが寄り添う。
レモンサワーにママお手製のお通しが寄り添う。

菜央さんは今年6月20日に大阪から上京したばかりだという。

「きっかけは6月18日に起きた大阪府北部地震。飼っている2匹のネコが怖がっちゃって、ご飯を食べなくなったんです。このままじゃヤバいと思って、大阪を離れて下北沢に住んでいる女友達の家で居候を始めました」

こちらも23歳の決断だ。

あっ、暑くないですか?
あっ、暑くないですか?

看板娘は往々にして気が利く。

「1カ月ぐらい様子を見て大阪に戻るつもりでしたが、東京での生活が楽し過ぎて、そのままお世話になることに。ネコたちもすっかり元気になりました」

ここで、ママが「ネコの恩返しがあるかもよ〜」と口を挟む。きっと、かわいい恩返しだろう。

前の家の匂いが残っているスーツケース内が定位置。
前の家の匂いが残っているスーツケース内が定位置。

「手前が『おすし』で、奥が『しめじ』。『おすし』はドンキの横で酔っ払いに蹴られているのを見てとっさに保護しました。『しめじ』は母親の知り合いから譲り受けたネコです」

ネコたちは再び平穏な生活に戻ったが、菜央さんは彼らのご飯代を稼がなくてならない。そんな折、散歩の途中でこの店の求人貼り紙を発見。面接を受けたところ、すぐに採用が決まった。

「スナックは行ったことがなかったんですが、仲のいい友達に『菜央はお客さんとじっくり話したいタイプだから、キャバとかガールズバーは向いてない。スナックがいいと思うよ』と言われて。このお店は大正解でした」

女性スタッフは現在も募集中である。
女性スタッフは現在も募集中である。

ここまでの話からわかるように、菜央さんは「楽しい場所」をキャッチする才能を持っている。昨年の夏は八丈島の民宿でリゾートバイトとして2週間だけ働いた。

「それも楽しくて、電話で『また働きたいです!』と言ったら、『じゃあ、すぐにおいで』って。結局、年末までたっぷり働きました」

八丈島でのワンシーン。
八丈島でのワンシーン。
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「東京に来て驚いたことはありますか?」という問いには「めっちゃあります」。

「大阪は電車の中でみんな喋ってるけど、東京はシーンとしてて怖い。あと、渋谷駅からヒカリエのほうに上がるエスカレーターが速すぎて、乗ってる間中、ずっと笑ってました」

まだ、ありますよ。
まだ、ありますよ。

ほかにも、「世田谷区下北沢という地名はないと知って意外だった」「目白と目黒は隣接していると思っていた」など、まあ、わからなくはない「驚き」を披露してくれた。

ところで、カラオケを歌っていないときのテレビモニターは、犬と猫の動画がエンドレスで流れているが、突然、星座占いに切り替わった。菜央さんはさそり座だ。

シャンプーを変えると人気者になるみたいですよ。
シャンプーを変えると人気者になるみたいですよ。

「今、『いち髪』っていうシャンプーを使っているんですが、気に入ってるから変える予定はありません」

頑固な一面を覗かせた。ここで、レモンサワーのお代わりを注文。

もう一人の看板娘(ママ)が持ってきてくれた。
もうひとりの看板娘(ママ)が持ってきてくれた。

ママ、菜央さんの印象はどうですか?

「とにかく、明るくて素直ね。あとは昔の歌をよく知っているのがすごく不思議」

菜央さんによれば、母親とのカラオケやテレビ番組の『ものまね王座決定戦』などで自然に覚えたという。

花は毎週花屋さんが持ってくる。
カウンターには毎週花屋さんが持ってくる季節の花。

ボトルの棚に飾られた木製プレートは、白馬のペンションオーナーが知人に連れられて来店した際に「六本木のクラブより、この店のほうが断然いい」と激賞。のちに、店名を彫って送ってくれたものだ。

白馬八方尾根から昇る“サニー”なご来光。
白馬八方尾根から昇る“サニー”なご来光。
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いつの間にか、カウンターが賑やかになってきた。40年来の常連だという紳士にも菜央さんの印象を聞くと、「この子の笑顔に癒されに来てるから」とのお答え。

「何歌いますか?」「デュエットする?」
「何歌いますか?」「デュエットする?」

横から「典型的なオヤジの顔になってますね!」とガヤが飛ぶ。紳士も「看板娘が目の前にいるんだから、そりゃあオヤジの顔になるよ!」と返す。平和だ。

紳士が選んだのは、秦基博の『ひまわりの約束』。映画『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌である。

若い子に寄せたくなる気持ちはわかる。
若い子に寄せたくなる気持ちはわかる。
菜央さんに向けた歌詞だろうか。
菜央さんに向けた歌詞だろうか。

そんなわけで、外は台風の影響で暴風雨だが、スナックの店内はいたって穏やかだった。ママ、菜央さん、そして紳士たち。お先に失礼します。

帰り際にママがカントリーマアムをくれた。どこまでも完璧なスナックである。

東海地方限定の「栗きんとん風味」。
東海地方限定の「栗きんとん風味」。

では、菜央さん。最後に読者へのメッセージを。

自分は一歩引く謙虚さ。

【取材協力】
ニューサニー
住所:東京都世田谷区北沢2-9-13
電話番号:03-3469-7166

石原たきび=取材・文

# 37.5歳からの愉悦# スナック# 看板娘
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