37.5歳からの愉悦 Vol.56
2018.08.23
FOOD&DRINK

新宿御苑のスナックで、気さくな看板娘が初対面とは思えなかった

看板娘という名の愉悦 Vol.28
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

首都大学東京の教授でスナック研究会代表の谷口功一さんは、「スナックは日本の夜の公共圏」だと言っている。

つまり、スタッフと客、あるいは客同士のコミュニケーションの上に成り立つ業態ということだろう。となれば、看板娘の存在はバーや居酒屋などと比べて、より重要性を帯びてくる。

今回訪れたのは、新宿御苑にある「しろくま」。国内に10万軒以上あるとされるスナックのひとつである。

地下に魅力的な飲食店街が広がります。

東京メトロ丸の内線の新宿御苑駅から徒歩3分、JR新宿駅からも徒歩15分ぐらいで着く。

かわいらしい看板を発見、ここだ。

カラオケの音が漏れ聞こえる。店内に入るとーー。

お爺ちゃんが熱唱中。

のちにわかるが、このどう見ても常連っぽいお方は、「はじめていらしたお客様」(看板娘談)だった。

一曲歌い終えると、店長の男性に「次、マスイヤマ入れてくれ」。店長が探しあぐねているので、「増位山で出てきますよ。元力士の歌手です」と助け舟を出した。

さっそく、一杯いただこう。この店はチャージ1000円で、スナックにしてはドリンク料金もリーズナブル。

カラオケは一曲200円。

結局、お爺ちゃんは取材中、エンドレスで歌っていた。気持ち良さそうなので、全然OKです。

さて、何を飲もうか。

「ハイボールチンチロリン」も気になるが……。
NEXT PAGE /

看板娘にオススメを聞くと、「うちのシークワーサーサワー、美味しいですよ」。では、それをいただきます。

お待たせしました〜。

強めの酸っぱさが夏にはちょうどいい。そして、前髪ぱっつんの彼女は副店長の里奈さん(24歳)。

こちらでチャージ込み、計1600円。

出身は岡山県の倉敷市。高校卒業後、文化服装学院広島校に入学し、さらに東京校に転入したが、2年生に上がる直前に除籍されたという。

「いやあ、ぶっちゃけ学費が払えなかったんです。ちょうど妹が大学に進学するタイミングだったから、親に余計な負担をかけるのも悪いなと思って」

いきなり、泣ける話が来た。その後、このスナックが正社員としてのスタッフを募集していることを知る。

「除籍された身としては、やっぱり安定が欲しいわけですよ。だから、オーナーに『働かせてください!』と直談判しました。1年半ぐらい前のことですね」

話を聞きながら、ウニとイクラの合わせ盛りがどうしても気になる。

「あ、それはオーナーが東急ハンズで買ったオブジェで意外にも1万円ぐらいします」

お爺ちゃんが『網走番外地』を歌い始めたところで、皆さんの看板娘評を聞いて回ることにした。

まずは、こちらのアイドル好きグループ。

「ああ、里奈ちゃん? いい子ですよ。それより僕は『ハイパーヨーヨ』っていうアイドルグループを推していて……」

推しアイドルの魅力をたっぷりと伺ったのちに、別のテーブルへ。

里奈ちゃん、どうですか?

「あの子は、どんな客にも気さくに接してくれるから嬉しい」「コミュ力が異常に高いと思う」「ノリもいいよね」などの賞賛コメントを聞けた。カウンターの女性にも声をかけると、スタッフだった。

この後、23時からカウンターに入るそうです。

彼女からは、「里奈ちゃんを嫌う人はいないし、里奈ちゃんが嫌う人もいません!」という、気の利いた箴言のようなセリフが飛び出した。

「交友関係が広いし、あと、今日はちゃんと化粧してるなと思いました」

ここで、「普段は適当ですが、さすがに今日は撮影があると聞いたので」と里奈さん。お召しになっているのは「どついたるねん」というバンドTシャツで、「取材、ちょっと怖いなと思って応援部隊として8人連れてきました」。

彼女が「世界で一番好き」だというバンド。

ちなみに、前髪ぱっつんとカラフルなメガネも気になります。

「私、眉毛を出した方が快活に見える気がして。メガネは去年、JINSで買いました。夏はこれを掛けると決めています」

季節によってメガネを変えるとはさすが。

「しろくま」という店名もかわいいが、看板に描かれたイラストも負けじとかわいい。

「あのイラストは、漫画家の長尾謙一郎さんに描いてもらったんです」

おお、『おしゃれ手帖』の人ですね。

2杯目のお酒は「期間限定で置いている」という青島ビールにした。おっと、里奈さんが注いでくれるようです。

泡だらけでも気にしない。

泡をすすりながら、今、ハマっていることを聞いたところ、「最近は、家で麺料理ばっかり作っています」とのこと。写真を見せてもらうと、これが想像以上に本格派だった。

これは店で出せるレベル。
NEXT PAGE /

さらに、質問はお酒の失敗談へ。麦焼酎が好きで、本人いわく「酔うと結構ひどいので、あまり飲みすぎないようにしています」。

しかし、それでもときには飲みすぎるのが酒飲みのサガ。

「1年ぐらい前にお店で飲みすぎて、ベロベロでお客さんをお見送りしたんですよ。気付いたら階段を踏み外して、盛大に転がり落ちました」

深夜だったため通りかかる人もおらず、30分以上うずくまっていたそうだ。

そのときの様子を再現してもらった。

無理やり帰宅して一度は眠ったが、酒が抜けるのと同時に激痛で目が覚める。タクシーで病院に行くと、診断結果は捻挫。約2週間、松葉杖生活を送ったという。まあ、その程度で済んでよかった。

さて、お爺ちゃんの歌もたっぷり聴けたし、そろそろおいとましよう。

やはり、安かった。

というわけで、里奈さんは気さくなトークとおもしろキャラがウリの、初対面とは思えない看板娘でした。

スタッフふたりでお見送り。

最後に、読者へのメッセージを。

字を間違えても気にしない。

 

スナックしろくま
住所:東京都新宿区新宿1-31-3 B1
電話番号:03-6274-8648
https://shirokuma.club

石原たきび=取材・文

# スナック# 看板娘
更に読み込む