37.5歳からの愉悦 Vol.50
2018.07.12
FOOD&DRINK

神田の地ビール専門店で、ビール愛を熱く語る看板娘に深く頷いた

看板娘という名の愉悦 Vol.22
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。

地ビールブームの昨今だが、神田に名店があると聞いた。

神田といえば中央線で品川方面に向かう際に、山手線あるいは京浜東北線に乗り換える駅というイメージが強い。エスカレーターが長い東京駅での乗り換えより早いのだ。

まあ、そういう話はどうでもいい。目指すは看板娘だ。思わず乗り換えそうになるのをこらえて神田駅で降りた。

南口から徒歩1分と至近。

飲食店ビルのエレベーターを3階まで上がると、「地ビールハウス 蔵くら」の扉が現れる。

ゴメシ?

月曜の夜7時。名店だけあって、早くも盛況だ。シックな店内で大人の男女が思い思いにグラスを傾けていた。

あれが看板娘だろうか。

そうだった。隣のテーブルの女性客が看板娘に「アベさんちょうだい」と声をかけた。

アブサンの聞き間違いかと思ったが……。

看板娘が僕に解説してくれた。

「『T.Y.HARBOR』っていうブルワリーレストランの醸造長、阿部和永さんのことです」

すごい。スーパーなどで生産者名をチェックして野菜を買うノリだ。

本日はこちらの「ヘイジーIPA」です。

「阿部さんはすごい人で、私、大ファンなんです。地ビール屋さんで偶然会ったときは緊張しました」

そこまで推すのなら飲んでみたい。

「僕も阿部さんをください」と言うと、隣の女性客が推しアイドルを褒められたかのように喜んでいる。

サーバーから丁寧に注がれるビール。

この店では日替わりで12種類の樽生地ビールが飲める。軽やか、フルーティー、苦い、黒ビール、どっしりまで、誰もが満足する鉄壁ラインナップだ。

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お待たせしました〜。

うわ、美味しい。上手に表現できないが、メニューを見ると「数種類のホップのトロピカルさとジューシー感! 苦味弱」とある。それです。

ご紹介が遅くなった。今回の看板娘は沙月さん(34歳)。コーヒーの勉強のためにワーキングホリデーでオーストラリアに行ったが、結果的にビールの美味しさに目覚めて帰国したという。

「もともとビールは1滴も飲めなかったんですが、あっちは乾杯といえばまずビール。気付いたら、すっかりハマっていました」

こちらのダンディな紳士はオーナーの田中さん(64歳)。

それでも当初の目標通り、東京でバリスタとして働いていたが、コーヒーよりお疲れビールを渇望するようになった。心の声には逆らえない。

「ビール専門店の求人を探していたら、ここを見つけたんです。地ビールのことをイチから学ばせてもらいました」

地方の醸造所まで足を運ぶほど勉強熱心な沙月さん。常連さんからは「さっちゃん」と呼ばれて愛されている。

皆さん、顔なじみとのこと。

カウンターの紳士淑女によれば、沙月さんの印象は「とにかくポジティブ」「ビール愛がすごい」「携帯電話をしょっちゅうなくす」「骨折してもへこたれない」。

左手の包帯がずっと気になっていたが、玄関でこぼれていた飼い猫の飲み水に滑って転倒、骨折したという。

沙月さんは「ギプスが外れて今は包帯。まあ、生活に支障はなかったです」と、確かにポジティブだ。ちなみに、猫の名前は「ホップ」。ビール愛は揺らがない。

コースターと箸袋もかわいい。

万歳しているのは別の女性スタッフが描いた「ビールちゃん」。箸袋のきのこは沙月さんが描いた「アリサカくん」。こちらは後で登場する。

沙月さんは絵を描くのが好きなのだが、「酔っ払わないと絵の神様が降りてこない」そうだ。

“作品”がファイリングされていた。

さて、小腹が空いたので何か食べよう。

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「看板メニューの『白麗茸』、超美味しいですよ!」と沙月さん。

勧められるままに「はくれい茸の炙りカルパッチ」(600円)を注文。

おそらく「カルパッチョ」のことだろうなと考えつつ、待つこと数分。白くて麗しいきのこが運ばれてきた。もちろん、初めて食べる。

これが本気で絶品だった。

「長野の有坂きのこ園が作っている白麗茸です。八ヶ岳のレストランで食べて感動したので、シェフにお土産として渡したら看板メニューになりました」

有坂さんによる「かんたんレシピ」。

この店には田中オーナー、沙月さん、そして写真は撮らなかったが厨房にフレンチ出身の木澤シェフがいる。思わず「シェフを呼んでくれ」と言いそうになった。

他にも、店内にはビールがらみのグッズや貼り紙が数多く見られる。

木澤シェフの知り合いが作っている「BEER缶スピーカー」。
お得なハッピーアワー。
ビールシーンで使える英会話集。
沙月さんが貼った「ビールを渇望する猫」。

最後に、この店にあるビールの中で沙月さんが一番美味しいと思うものを紹介してもらった。

「世界には美味しい地ビールがたくさんありますが、やっぱりうちの12種類の樽生が最高です。中でも私が好きなのは、新潟のスワンレイクビールさんが限定で造っている『#B- IPA』。ああ、でも他にもあるんですよ。話し出したら止まりません」

こちらは現地ベルギーまで飲みに行ったという「ボン ヴー」。

看板娘のブレないビール愛に、深く頷いて店を出たのであった。

では、読者へのメッセージをどうぞ。

猫ときのことビールLOVE。

【取材協力】
地ビールハウス 蔵くら
東京都千代田区鍛冶町1-4-6 東京神田ビル3F
電話番号: 03-6206-8866
http://j-beer.com

石原たきび=取材・文

# 地ビール# 看板娘# 神田
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