自由が丘の横丁バーで、看板娘から真っすぐで優しい香りがした
東急東横線と大井町線が乗り入れる自由が丘。1960年に公開された『自由が丘夫人』という映画で、ハイソな街というイメージが広まった。

そんな自由が丘にも看板娘はいる。

歩くこと1分で6軒の小さな飲食店が集まる「自由が丘横丁」に到着。この一角に目指すバー、「本牧パンチ」があった。

カウンター席に座り、メニューを見ると「ブラジャー」という文字が目に飛び込んできた。

聞けば、横須賀中央駅にほど近い飲食街「若松マーケット」がご当地カクテルとして考案したお酒だという。毎年11月には「横須賀ブラジャーまつり」も開催される。

ブランデーとジンジャーエールで割るから「ブラジャー」。横須賀が地元の小泉進次郎も絶賛したというから注文せざるを得ない。

今回の看板娘は真優香さん(23歳)。名前の漢字を尋ねると、少し照れながら「真っすぐに優しい香りです」と教えてくれた。
一方、フードのおすすめは「ミックスピザ」(1000円)。本牧のソウルフードである四角くて薄いピザ発祥の店「IG(イタリアンガーデン)」から生地を取り寄せている。

生地は生の状態で仕入れ、写真のパックは15枚シート。さらに、フードはすぐ近くのタイ&イタリアンバル「AMANe(アマン)」からデリバリーもできる。


山崎さんは渋谷のんべえ横丁で「calms」というバーも経営しており、彼は元々そこのスタッフだったそうだ。

薄いがモチモチのピザはいくらでも食べられそうだ。また、カプレーゼは水牛の乳を原料としたブッラータチーズを使用し、イチゴの王様ともいわれる福岡産の「あまおう」が彩りを添える。
山崎さんに店名の由来を聞いた。
「本牧は僕が横浜出身なので。あと、クレイジーケンバンドのデビューアルバムのタイトルが『パンチ!パンチ!パンチ!』なんですよ」

さて、真優香さんである。この日は病院に寄ってきたというので事情を聞くと、扁桃炎で39度近い熱を出したそうだ。

「喉が人生イチの痛さで、お医者さんいわく免疫力が下がっているそうです。よくわかんないんですが、7種類ぐらいの薬を出されました」
このタイミングで僕が咳き込むと、すかさず「トローチあげましょうか?」。真っすぐに優しい。

真優香さんは仙台出身。大学入学を機に上京し、現在は英米文学を学んでいる。とくに、アメリカの近代詩が好きだという。
「小学生の頃は学校の図書館で静かに過ごす子供でした。『戦艦武蔵のさいご』とか、戦争関連の本を片っ端から読んでいました。ああいう絶望的な話を読んで暗くなるのにハマっていたんです」

家ではハムスターを飼っている。
「最初は『ジョン』って呼んでいて、次に『リップル』になりましたが仮想通貨っぽくて嫌だなと。最終的には『モチ』に落ち着きました」

上京後は歯医者の受付のアルバイトを始めた。
「毎回遅刻するお爺ちゃんに電話を掛けたりとか、そういう仕事です。ここは『calms』に通っていた縁で、今年の2月から働かせてもらうことになりました」
彼女をスカウトしたオーナーの山崎さんは言う。
「飲食の経験はほとんどないと聞いたけど、飲み屋が好きで喋りも面白い。お酒の作り方は後で覚えればいいと思って」
熱狂的なベイスターズファンである山崎さんは、1950年の復刻ユニフォームを着ていた。

隣では常連客らしき男性がスパゲティを食べている。

仕事帰りだと言っているので、自由ヶ丘で途中下車したのだろうか。
「いや、会社は飯田橋で家は千葉の船橋なんです」
まるで逆方向の電車に乗ってきたのだ。店と看板娘の吸引力がすごいなあと思いながら、お酒のお代わりをすることにした。
真優香さんにおすすめを聞くと、「ブラジャーを飲まれたのなら、次はパンティーでいかがですか?」。おっと、いただきましょう。

「ブラジャー」は横須賀発祥だが、この「パンティー」は「本牧パンチ」のオリジナルである。
「紅茶はいろいろ試した結果、午後ティーが一番しっくりきたそうです」。

さて、ブラジャー、パンティー、そして看板娘の優しさを満喫してお会計。最後に読者へのメッセージをお願いします。

[取材協力]
本牧パンチ
住所:東京都目黒区自由が丘1-29-7 自由が丘横丁
www.facebook.com/honmokupunch/
「祐天寺の蕎麦居酒屋で、看板娘のリンゴのような笑顔に癒された」
石原たきび=取材・文