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2017.08.20

たべる

僕にとってレモンサワーは「だんだん濃くなる人生」なんです

レモンサワーという名の愉悦 vol.6
大人になった今だからこそ、味わうことができる愉悦。ウェブオーシャンズではこれまで、スナック、ホッピーをテーマに、その奥深い嗜みのノウハウを紹介してきた。そして今回のテーマは「レモンサワー」である。どこの店にでもあるが、そのシンプルさゆえに嗜みの奥深さは計り知れない。全6回でレモンサワーの魅力の真髄に迫ります。
「レモンサワーという名の愉悦」を最初から読む
連載6回目は少々異色である。オススメの店を紹介するのではなく、案内人みずから「究極の1杯」を作ってくれるというのだ。
訪れたのは浅草の「HATCH」というバー。
何やらかき氷屋のようだが…
案内人の名は鈴木雅人さん(28歳)。「ツモマーと呼んでください」と言うので由来を聞くと、「ツモリチサトの服ばっかり着ている時代に名付けられた」とのこと。
 
本業はデザイナーで紙、ウェブ、空間、映像、すべてを手がける
彼は月2回、第1土曜と第3土曜にここのカウンターに入る。かき氷は夏季限定で出しているそうだ。
「デザイナーが集まる場所があるといいなと思って。お酒の作り方ですか? 20歳過ぎの頃に働いていた新宿のハプニングバーで学びました」
そこは深掘りせず、さっそく究極のレモンサワーをお願いする。
慣れた手付きでメジャーカップを持つツモマーさん
「どうぞ」
おお、想像以上に本気のやつだ。
「バーということで焼酎ではなくウォッカを使っています。輪切りのレモンで真ん中をせき止めていて、上は砂糖を加えた炭酸水、下はウォッカという2層構造です。半分飲んだらマドラーでレモンを潰して味の変化を楽しんでください」
これは新しい。お値段600円也。
ツモマーさんは浅草に住んでいるというので、「ホッピー通り、いいですよね」と振ると、「浅草の人はめったに行きません。おもに飲むのはもう少し千束寄りのほうで、僕らが『裏浅草』と呼んでいるエリアですね」
雨がそぼ降るホッピー通り
さて、ここでちょっと話が変わって「かき氷担当」の藤原すずめさん(23歳)をご紹介したい。縁があって今夏からデイタイムにかき氷を出すことになった。
「生のフルーツを使っていて練乳も手作りなんですよ」
800円の「いちご」を注文。氷は上野にある大野屋という老舗のかき氷専門店の「生氷」だ。「生氷」とは昔ながらの保存方法で作る“冷凍しない”氷なんだそうだ。
すごい……
「ふわっふわに削ると頭がキーンとならないんです」と藤原さん。
これがまた美味しかった
レモンサワーを飲みながら、かき氷を食べる日が来ようとは。ちょっと量が多いかなと思ったが、口に含むと消えてなくなるような食感でほどなく完食。
レモンといちごの余韻に浸っていると、藤原さんが屋上に案内してくれた。
「メダカがいるんです」
「あ、こっち見てる」
メダカもいいが、外飲み好きとしてはこの空間が非常に気になる。
さて、ツモマーさんのところに戻って再び話を聞こう。好青年だしわかりやすくモテそうだが、彼女はいるのだろうか。
「もう2年ぐらいいません。理由ですか? 性の嗜好が特殊らしくてドン引きされちゃうんです」
そこも深掘りはしない。オーシャンズ世代、すなわち37.5歳ぐらいになったらどんな風になっていたいですか?
「結婚して子供もいてっていう普通の生活がいいですね。無理だったら犬を飼って、その犬が寿命を迎える2、3日前に死にたいです。先に死なれたら悲しすぎるので」
ツモマーさんは料理もひと通り作れるので、最悪ひとりでも生きていけるという。趣味は深夜の街を自転車で徘徊することだそうで、やはりこの人は大丈夫なのかもしれない。
バーで出した手作りのフォアグラのパスタ
最後になりましたが、あなたにとってレモンサワーとは何ですか?
「個人的にはさっき飲んでもらった2層構造のレモンサワーが気に入っていて、最初は甘いジュースで後から濃いお酒が登場するという。だから、僕にとってレモンサワーは『だんだん濃くなる人生』ですね」
マンゴーのかき氷を食べながら「とりあえず結婚したいです」
ありがとうございます。どうせなら奥さんも子供も犬も全部手に入れて濃い30代を過ごしてくださいよ。
取材・文/石原たきび
【取材協力】
BAR HATCH



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