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2017.07.11

たべる

人生を楽しむヒントが?大阪の天ぷら屋でクリエイティブなひとり飯


店員の人に愚痴っていたり、ずっとスマホをいじっていたり、さびしいと思われるのが心配だったり……。いやいや、男のひとり飯ってもっと自由で格好いいもんなんです! そこで目指すべきは“グルメ・ヒトリスト”。すなわち自由に食を謳歌する一匹狼です。女性が思わず惚れるような“グルメ・ヒトリスト”を目指すべく、ひとり外食の楽しみ方や振る舞い方を、達人に教えてもらいましょう!「ひとりで店には入れない」なんて後ろ向き。イメージが180度変わる、ひとり飯のすごい世界とは⁉︎
「ゼロから学ぶオッサンひとり飯」を最初から読む
「ひとり飯に行くといつも手持ち無沙汰」「人見知りだから、店の人や常連さんと会話が弾まない」「結局、家にいるときみたいに本を読んだり、スマホを見たりして終わる」……知人に「ひとり飯っていいものだよ~」と勧めると、よく返ってくるのがこんな言葉です。
話す相手もいない状況で、食事をして飲む以外に何をすればいいのかがわからない。はい、その気持ちもわかります! 別に、家にいるときみたいに過ごしてもいいし、手持ち無沙汰なままボーっとしていてもいいと思うのですが、ひとり飯に慣れないうちは「外にいるのだから、普段とは違う過ごし方をしないといけない」と思ってしまうんですよね。
“ひとり飯の達人”である、本連載のアドバイザー・本郷義浩さんは、どんな過ごし方をしているのでしょうか?
富永:私も、ひとり飯を始めたころは、どうしていいかわからず、ずっと下を向いて本を読んでいました。でも、もったいない気がして、あるときから本を置き、お店の人やお客さんの流れを見たり、ぼんやり考え事をしたりするようにしたんです。そしたら自然と、店内でいろんな人と会話をする機会が増えました。
本郷:ひとり飯に慣れていない人には、なんらかの「役割」が必要だと思うんです。そうでないと、どうしても手持ち無沙汰だし、人目も気になるし、どう振るまえばいいのかわからなくて、失敗が怖くなる。そういう不安は、たとえば「自分ひとりだけの『アド街ック天国』を作っている」というプロデューサーの役割を“演じる”だけでも、少し解消されます。
富永:「これは日常の俺ではなく、もう一人の俺がやっていることだ」と開き直れると、演じる楽しさも感じられて、気が楽になりそうですね。それはアド街でもいいけれど、「近所のいい店を紹介するブログを書く」みたいな目的でもいいのでしょうか?
本郷:もちろんです。アド街でも、グルメブログでも、なんでもいいのですが「俺は今、ロケハンに来ているのだ」という言い訳のもとで店を訪れてみると、店内での振るまい方や過ごし方が変わってきますよね。
富永:どんな人が来ていて、何がおいしくて、それはどんな材料でできているのか……自然とお店の人や常連さんへの興味が増してきますよね。自分の中だけで「プロデューサー気分」を味わいながら、ひとり飯を楽しむ……それはおもしろそうです!
本郷:あと、僕はひとり飯のメリットとして、クリエイティブな考え事や作業をするのにも適していると思います。この場合は、積極的に人と話すというより、ひとりで考える時間が主ですね。もちろん、会話を通してヒントを得ることもあります。
富永:そのときは、やっぱり仕事の企画を考えていらっしゃるんですか?
本郷:仕事だけでなく、僕はいつも「どうやったら人生を楽しく送れるか」を考えています。最近は、ひとり飯の最中に「クリエイティブな生活って、どんなものだろう? 死ぬまで、クリエイティブなことを続けられる環境は、どうしたら作れるか?」なんてことを考えていました。あと、仕事に活かそうとか、どこかで連載に書こうとかは考えず、言葉遊びをしたり、連想ゲームをしたりすることもありますね。
富永:人目のあるところだと、つい真面目に「仕事の企画を考えねば」なんて思ってしまいそうですけれど、自由に楽しんでいいわけですしね。
本郷:僕は最近、俳句を始めたのですが、俳句を考えるのにひとり飯の時間ってすごく合うんです。風をあらわす言葉だけでも、100個以上もあって、日本語の豊かさに染み入ります。春先にバーで詠んだ一句、聞いてもらえます? 「小悪魔の 鎖骨に堕ちし 桜かな」 桜とともに堕ちた、男の心をあらわしています。飲みながら、ふと「花見の席に、鎖骨の見えるセクシーな服を着てくる女性って、ちょっと悪い女だなぁ」なんて思ったんですね(笑)。
富永:ひとりでのんびりと飲んでいるからこそ、妄想力もたくましくなりそうですね(笑)。
本郷:連載のはじめのころにもお伝えしましたが、職場と家の往復になりがちな男性は、仕事をリタイアしたあとに居場所がなくなりやすい。だから趣味も、ひとり飯できる店も含めて、居場所をたくさん作っておいたほうがいいと思うんです。俳句はとくに、おすすめの趣味ですよ!
今回は、本郷さんがクリエイティブな思索にふけるときに通うという、大阪の天ぷら屋「金扇」をご紹介いただきました!

「レトロな作りの天ぷら専門店です。寡黙なご夫婦だけで営むお店で、僕はもう20年くらい通っています。ご夫婦の雰囲気がよくて、ほとんど会話をしなくても心が落ち着くからか、のんびりとクリエイティブな脳内作業にいそしむことができます。番組のタイトルを考えたり、俳句を詠んだり……思いついたことは、スマートフォンのメモに書いています」

「いつもカウンターに座って、最初に2品ほど酒のアテをいただいてから、天ぷらのコースを頼みます。瓶ビール2本、冷酒2合をあわせて飲んで、だいたい7000円くらい。締めに出てくる天かす(揚げ玉)の玉子とじ丼は濃厚な味で、癖になりますよ」
ひとり暮らしでない限り、案外「ひとりになる時間」ってないものです。でも、ひとり飯なら自由なペースで食べられるから、心にゆとりができて、いいアイデアが見つかる。そんなお店が、あなたにもきっとあります! 今夜、探しに出てみませんか?

「天ぷら 金扇」
問:06-6312-5033
住:大阪府大阪市北区万歳町3-41 ホワイトコーポラス1F
営:ランチ12:00~13:30、ディナー17:30~23:30 ※日曜はディナーのみ営業
休:月曜、祝日
web-joho.com/kinsen/
取材・文/富永明子
フリーライター。レシピ本の企画・編集、グルメ記事の執筆など、食に関する仕事のほか、美容やヘルスケア、ダイエットに関する書籍・記事も多数。趣味はクラシックバレエ。
取材協力/本郷義浩
毎日放送プロデューサー。1964年、京都生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、88年毎日放送に入社。「真実の料理人シリーズ」「ラーメン覇王」「ビビビのB級グルメ覇王」「あまからアベニュー」「水野真紀の魔法のレストランR」など、多くのグルメ番組に携わる。番組関連で取材した飲食店はのべ1万軒、プライベートでの食べ歩きも1万軒以上。近年は、世界でただひとりの麻婆豆腐研究家を名乗り「麻婆十字団」を結成。著書に『うまい店の選び方 魔法のルール39』(KADOKAWA)、『自分をバージョンアップする 外食の教科書』(CCCメディアハウス)がある。

『自分をバージョンアップする 外食の教科書』
本郷義浩(CCCメディアハウス)
「外食」を通して世界を広げることが、仕事もプライベートも今より充実させ、自分をバージョンアップさせる! 本郷さん自身の経験をもとに「冒険的外食術」「リーダーとしての外食術」「モテる外食術」など、具体的な外食の方法を解説した一冊。
 



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