そこが知りたい! 女性が好きな男服 Vol.29
2020.09.20
FASHION

女性クリエイターが手掛けるベーシックアイテム。そこに込められた「理想の男性像」

メンズウェアの歴史や伝統、あるいは確かな技術。それらに敬意を払いながら、自らの哲学を投影したものづくりを続ける一流のウーマンクリエイターに注目してみた。

紹介するアイテムはどれもベーシックなものばかり。しかしそこには、女性が思う「理想の男性像」を紐解くヒントがたくさん詰まっていた。

 

「できる限り時代に流されない服を」
AGNÈS B. アニエスベー

1979年に登場した写真のカーディガンプレッションは、まさにアニエスベーというブランドを象徴するアイテムだ。
1万6000円/アニエスベー 03-6229-5800

「若い頃はよくスウェットシャツを着ていました。ある夏の日、カーディガンのように前が開いたらいいなと思ったんです。それがこの“カーディガンプレッション”誕生のきっかけです」。

アニエスベーさんはこう回想する。1979年に登場した写真のカーディガンプレッションは、まさにアニエスベーというブランドを象徴するアイテムだ。神父が着るキャソックのような、狭い間隔で並んだフロントのスナップボタン。

当初、コットンの裏起毛、つまりスポーティなスウェット素材が用いられていたが、その後さまざまなバリエーションが登場。冬にはレザー、夏には薄手コットンや半袖なども展開。

「トレンドは知らないし、追いません。ほかのデザイナーたちがつくる服を見ることもありません。できる限り時代に流されない日常着をデザインするのが好きなのです。実際私は30年前、20年前、10年前にデザインした服に、今の服を組み合わせて着ています」。

この類いまれかつ偉大なデザイナーの服に対する考え方に、僕らは大きく共鳴する。何でもない(ように見える)スウェットやデニム、スニーカーが大好きだし、それを着ているときがいちばん自分らしいように思えるからだ。

さて今季の立ち上がりにアニエスベーが掲げるテーマは「ニュー・スタンダード・シック」。カーディガンプレッションやジーンズといった定番アイテムに、今の服をコーディネイトする。そこには「大切なものを長く愛用してほしい」と願うアニエスベーさんの想いが込められている。

デザイナー
アニエスベーさん
フランス生まれ。モード雑誌「エル」の編集者を経て1975年にアニエスベーを設立。ブランド名は編集者時代の記事の署名に由来する。日本への初出店は’84年。デビュー以来40年以上にわたり第一線で活躍する。 ©kate Barry

 

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「シャツはその人のユニフォーム」
FRANK & EILEEN フランク&アイリーン

デニムシャツ「ルーク」/フランク&アイリーン
2万8000円/フランク&アイリーン(サザビーリーグ 03-5412-1937)

シャツづくりで最も大事なのは「テキスタイルとウォッシュの開発」だと、オードリー・マクローリンさんは明言する。写真のデニムシャツ「ルーク」も然り。

「本当にたくさんのイタリア製デニム地を試し、最高のウォッシュ技術を持つ工場をLAで見つけました」。ウォッシュ加工は’60年代から’90年代までをイメージした4種類を開発。こちらのウォッシュは’70年代だ。

「私自身が’70年代生まれということもあり、この加工がいちばん好き。着ていくほどに味が出ます。実際たくさんの男性が、毎日のようにこのストーンウォッシュのシャツを愛用してくれています」。

さて、ブランド設立当時の2009年。ウィメンズのファーストコレクションのプレゼンのため、オードリーさんはサンタモニカのセレクトショップ、フレッドシーガルを訪れる。そこで「男性用もぜひ」と逆提案されたのが、メンズのシャツづくりのきっかけだ。

「女性は気分や行く場所で服のシルエットを変えたがるものですが、男性は違うと考えました。毎日着られてその人自身のユニフォームにもなるようなシャツを探しているのではないかと。実はメンズのシャツは、当時ロン・ハーマンさんと一緒につくったんですよ!」。

後にブランドを代表する型となる「ルーク」は、このとき生まれたのである。

デザイナー
オードリー・マクローリンさん
カナダ生まれ。大学では工学を専攻。2009年、LAにて自身の祖父母の名前を冠したフランク&アイリーンを設立する。イタリア製の最高品質の生地を採用した、洗いざらしで着られるシャツで高い人気を誇る。

 

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「私が惹かれた父のワードローブ」
LAD BY DEMYLEE ラッド バイ デミリー

シックな色。カシミヤ素材。伝統的なホーンボタン。どこまでも普遍的な、ラッド バイ デミリーによるショールカラーのカーディガンだ。
6万9000円/ラッド バイ デミリー(サザビーリーグ 03-5412-1937)

シックな色。カシミヤ素材。伝統的なホーンボタン。どこまでも普遍的な、ラッド バイ デミリーによるショールカラーのカーディガンだ。

「私たちは誰もが、このタイプのカーディガンを着ていた父親や祖父を記憶しています。長い間着用すると、確実に摩耗し形崩れを起こすアイテム。でもその変化こそ、美しさなのです」。

デミ・リーさんの作る服はどれもオーセンティックだ。もちろんイメージを再構築して今の雰囲気を十分に備えてはいるが、根本的には王道である。

「私は小さい頃から、母のクローゼットよりも、フェアアイルセーターやクラシックシャツが揃う父のクローゼットのほうが好きでした。自分がつくるならどこか懐かしさのある、タイムレスな服にしたかったのです」。

ちなみにブランド名の“LAD”とは、男の子や若者を意味する昔ながらのアメリカ英語だ。さてこのカーディガン、今ならどう着こなすべきか。

「デニムあるいは、スラックスをはいてください。モダンとヴィンテージ、両方のスタイルをつくることができます。そして私は、セーターの下に白いTシャツや白いシャツを着ている男性が好きです。それは最も簡単で、最もエレガントなコーディネイトなのです」。

デザイナー
デミ・リーさん
韓国生まれ。著名デザイナーを数多く輩出してきたNYのパーソンズを卒業。カルバン・クラインでニットデザイナーを務めたのち、2007年にデミリーを設立。メンズラインのラッド バイ デミリーは’13年にスタート。

 

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「冒険の歴史が創造する源です」
JOHN LOBB ジョンロブ

今季はウインザー公のオーダーに端を発する元祖ダブルモンク「ウィリアム」に、75周年記念モデルが誕生した。/ジョン ロブ
18万8000円/ジョン ロブ(ジョン ロブ ジャパン 03-6267-6010)

世界最高峰のシューズブランド、ジョンロブ初のアーティスティック・ディレクターに、パウラ・ジェルバーゼさんが迎えられたのは2014年のこと。ファッション畑を歩んできた女性が紳士靴の名門を率いるとあって、当時は驚きとともに賛否両論を呼んだ。

しかし結果は、賞賛の嵐。優れた美意識の持ち主であることはもちろん、彼女はブランドの精神を誰よりも深く理解し、大切にする人物だった。今季はウインザー公のオーダーに端を発する元祖ダブルモンク「ウィリアム」に、75周年記念モデルが誕生した。パウラさんは、この靴について次のように熱を込めて語る。

「創業者の息子、ウィリアム・ロブによりつくられたウィリアム(飛行士が履くブーツに着想を得たとされる)は、当時画期的なものでした。よく模倣されますが、勝るものはありません。

これこそ、ジョンロブが1849年に創業して以来、革新の理念に基づき努力を続け、芸術性や技術の天井を押し広げ続けてきたことを証明する完璧なサンプルだと思います。その物語を継承する本作には現代的な丸みを帯びた♯0015ラストを用い、洗練されたフォルムに仕上げました」。

ガンメタリックに輝くバックルも、洗練の印象を後押し。一方でダブルレザーソールは通常よりも半層分厚く、コバも大きく張り出している。品の良さとアウトドアの野性味を破綻なく併せ持つ点も面白い。

「ジョンロブ創業者は、イギリスからオーストラリア、ヨーロッパを巡る旅をしました。アーカイブの靴には、街とともにアウトドアの要素があり、それが現在のコレクションにもインスピレーションを与えています。冒険の歴史が、コレクションを形づくるものになっているのです」。

なるほど、興味深い話である。ところで、靴をデザインするうえで理想とする男性像はあるのだろうか?

「いいえ。アーティストにミュージシャン、建築家、銀行員や弁護士をされている方々……。お客様の多様性こそが、我々ジョンロブ・ファミリーの豊かさだと感じています」。

ファッションのカジュアル化による男性のドレスファッション離れについて見解を聞くと、「個々人が自由に意思を表現できる、メンズファッションを刺激的にする出来事」とパウラさん。洗練と野性味を併せ持ち、ドレスにもカジュアルにも使い勝手がいい今作はまさに、自由にファッションを楽しむ現代の男性にぴったりのシューズといえよう。

アーティスティック・ディレクター
パウラ・ジェルバーゼさん
ブラジル生まれ。在学中にサヴィル ロウのテーラー、ハーディ・エイミスにて仕立てを学びキルガーへ。ヘッドデザイナーを務めたのちに、2010年には自らのブランド、1205をスタートする。’14年、現職に抜擢される。

 

鈴木泰之=写真 菊池陽之介=スタイリング 加瀬友重、いくら直幸、秦 大輔=文

# フランク&アイリーン# ウーマンクリエイター# カーディガン# シャツ# 女性目線
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