2018.12.21
FASHION

シティアウトドアの達人に訊く「なぜ街にアウトドアウェアが必要なんですか?」

本来、過酷な環境を耐え抜くために生まれたアウトドアウェアが、街に下りて早数十年。その黎明期から現在にいたるまで、先頭を走り続けるデザイナーやバイヤーにインタビューを敢行。

彼らのライフスタイルに大きな影響を与えた名品、渾身の力作を通じ、改めて“街で着るアウトドア”の魅力や着こなしを語ってもらった。

 

快適さとスマートさが両立する欧州アウトドアウェアに
ファッション意識の高さを感じました
「アディダス テレックスのシェルパーカ」

相澤陽介さん Age 41
ホワイトマウンテニアリング  デザイナー

「僕の親父はキャンプが好きで、僕も小さい頃からよく山へ連れて行ってもらいました。一方で母親はヨウジヤマモトなどをよく着るモードな人でした。そんな両親の元で育ったから、僕も早いうちからファッションとアウトドアの両方が好きになったんだと思います」。

現在、アウトドアウェアをデザインソースに物作りを行う相澤さんは、自身のスタイルの原点をそう振り返る。そして、その両方を長年見続けてきた彼はこんな結論にたどりつく。

「唯一、アウトドアウェアとスポーツウェアだけが10年前と変わっていることに気付きました。トレンドは循環するからリバイバルやブームの再燃を繰り返すけれど、テクニカルウェアは常に進化を続けている。それがデザイナーとしてすごく魅力的なんですよ」。

そんな彼の審美眼が評価され、名だたるアウトドアやスポーツブランドのデザインをまかされてきたのは周知のとおり。近年だと、アディダスのアウトドアライン、テレックスとの協業がそれだ。

「もともとヨーロッパに行くと、街中で着てる人をよく見ていたんです。これはテレックスに限った話じゃないけど、アメリカのアウトドアブランドが動きやすさを求めてゆったりとしたサイジングになりがちなのに対して、ヨーロッパは着心地を追求しながら細身のキレイなシルエットにもこだわる傾向があって、それが面白い。今回挙げたこのジャケットは、バックカントリー用に黄色を選びましたけど、例えば黒だったら街中でも違和感なく着られるデザインだと思います」。

ことジャケットに関しては、アウトドアウェアを街中で着てもそうそう過剰なオーバースペックにはならないと相澤さんは言う。

「防水・防風性も保温性も、日常のさまざまなシーンでちゃんと活きてきますよ。ただ、盛りすぎだけには注意です。『アイツ、山から下りてきたばかりなのか?』と思われたくはないですからね(笑)。クラシックな着こなしに機能的なウェアを1点加えるくらいのバランスが、僕は好きです」。

サイクルを繰り返すファッションと革新を続けるアウトドアウェア。自分のなかで、その折衷の自由度が40歳を超えて上がっていることが、今とても楽しいんだと、相澤さんは笑った。

あいざわようすけ●1977年生まれ。多摩美術大学染織科を卒業後、2006年にホワイトマウンテニアリングをスタート。2018SSシーズンからは、ハンティング・ワールドのクリエイティブディレクターに就任。そのほか、多摩美術大学の客員教授も務める。

 

アウトドアウェアの機能は街でも十分に体感できます
「ゴールドウインのマウンテンパーカ」

渡辺真史さん Age 47
ベドウィン & ザ ハートブレイカーズ  ディレクター

「初めてアウトドアウェアを街で着たのは、渋カジが流行していた’80年代後半、自身が高校生の頃です。映画『ディア・ハンター』(1978年)を見て、主演のロバート・デ・ニーロが着ていたオレンジ色のマウンテンパーカにひと目惚れ。調べたらホルバーのものとわかり、すぐに買って毎日のように着ていました。当時でも60/40クロスはクラシックな素材でしたが、雨の日は街でも機能性を体感できた」。

以来、アウトドアウェアをファッションとして街や旅先で楽しむようになった渡辺さん。最近のお気に入りは、このゴールドウインのゴアテックス製マウンテンパーカだ。

「2017年にリニューアルした、同社が手掛けるブランドです。僕はこの会社とそこで働く人たちを尊敬しています。というのも以前、同社がライセンス契約で製造しているザ・ノース・フェイスとコラボレーションしたことがあり、彼らの品質を追求する姿勢と山に対する気持ちに感銘を受けたから。

そしてこのマウンテンパーカは、その社名を冠したブランドなので、服のレベルが本当に高い。すべてのディテールに理由があるし、ロゴも黒で見えないし、ファッション的視点でも非常に洗練されています。最近はテントを持って山にキャンプへ行くこともあります。それはアウトドアウェアの機能を試したいというよりは、オフラインの生活を充実させたいという気持ちが強いかも。

今、街でアウトドアウェアが持てはやされている理由は、プロダクトとして優れているうえ、格好いいからだと思います。強風が吹けば、街中でも機能を体感できるわけで。ナイキやアディダスはスポーツブランドですが、みんな街ではファッションとして取り入れていますよね。

アウトドアウェアもそれと同じかなと。同世代の皆さんには、昔のアウトドアブームで時間が止まっている人もいるかもしれませんが、その機能は日々進化しているし、本来ファッションとは楽しいものです。気負わず街でアウトドアウェアを着てほしいなと思います」。

わたなべまさふみ●1971年生まれ、東京都出身。10代からモデル活動を始め、大学卒業後に渡英。帰国後はアパレルブランドの立ち上げにも参加し、2003年には大人のストリートを軸とした自身のアパレル会社DLXを設立、同社の手掛けるブランド、ベドウィン & ザ ハートブレイカーズのディレクターに。

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ルーツや用途に沿った着方をすれば、機能性をより体感しやすくなりますよ
「ウエスタンマウンテニアリングのフラッシュベスト」

甲斐一彦さん Age 45
バンブーシュート  ディレクター

僕はこの世代(2018年で45歳)のご多分に漏れず、渋カジをとおしてアウトドアウェアに夢中になったクチです。1992年頃に次世代のアウトドアブランドが続々と出てきて、より深みにハマった感じですかね」と語る甲斐さん。お店をオープン後しばらくして、厳しい環境下でアウトドアウェアの機能を体感するため、自ら山に向かうようになったそうだ。

「この冬はダウンの当たり年なので、今日はダウンの話をしようと思います。私の好きなブランドとアイテムはずっと変わりません。ウエスタンマウンテニアリングのフラッシュベストとフェザードフレンズのヘリオスジャケット、この2つ。

共通点はシュラフの製造からスタートしたことと、シェルの下に着るのを前提に作られていること。特にこのベストを最初に着たときは感動しました。800フィルパワーの超高品質なダウンは、当時からライバル勢を圧倒していたし、インナーダウンという考え方が画期的でした。

当時のダウンベストはセーターなどの上に着るのが主流で、ボリューミーなものがほとんどでしたから。ジッパーが、裏表を逆にして縫われていることにも驚きました。信じられないかもしれませんが、なぜか裏側が表よりも滑りがいいんです。

それに、裏側のほうがフラットだから上に着たアウターへも響きづらい。こういった機能が先行しながらも、それがデザインによく落とし込まれている点が素晴らしいですね。それにこの高品質でアメリカ製にもかかわらず、現在では2万円台という誠実な価格設定も素晴らしい」。

「機能下着のピタピタ感がイヤ」という甲斐さんが愛してやまないのが、マウンテンハードウェアのキャニオンシャツ。「この生地はすぐ乾くし、折りたたみ式の襟は立てると日焼け止めになる。現在は廃番品なので復刻してほしいですね」。

またアウトドアウェアを街で着るコツについては、「サイズを間違えないこと。必ずしもジャストサイズを選ぶという意味ではなく、今季だと少し大きめのシェルを着てみるとか。あとは、本来の用途に沿った着方を街でもすること。シャツの下には、汗でベタつかないウールのインナーを身に着けるとか、そういう知識を得ると、より機能を体感しやすくなると思います」。

かいかずひこ●東京・渋谷の古着店、メトロ・ゴールドなどを経て、アウトドアをファッションとして提案する店、バンブーシュートをオープン。ショップ名を冠したウェアライン「バンブーシュート」もスタート。ディレクターとしてデザインから生産まで、すべてを統括している。

 

アークテリクスこそ、僕にファッションとアウトドアの
親和性を教えてくれたブランド
「アークテリクス × ビームスのシェルパーカ」

パーカ4万5000円/ビームス 原宿 03-3470-3947

中田慎介さん Age 41
ビームス  メンズカジュアルディレクター

「好きなアウトドアブランドはたくさんありますが、今の気分で挙げるならアークテリクス。僕は学生のときに2回のアウトドアブームを経験していて、最初は高校生だっ1993年頃。今思えば、そこがアウトドアウェアをファッションとして着ることになったスタート地点ですかね。

次は’97〜’99年で、渋谷にあった『B・E(アウトドアウェアのセレクトにも強烈なオリジナリティがあったビームスの伝説的なショップ)』で、お客さんとしてアークテリクスのシェルパーカを買いました。止水ジップのハイテク感とド派手なカラーリングがとにかく衝撃的で格好良かった。自分のファッション感が変わったアイテムです。色の洪水のような斬新なアメカジを夢中になって追いかけました」。

ビームスに入社後も、中田さんにとってアークテリクスは特別な存在だそうで、「初めてNYに出張したとき、雨が降ってきて、当然のように先輩にNYの老舗スポーツ店、パラゴンスポーツに連れて行かれました。で『どれにする?』って。傘を差すという選択肢はなく、アークテリクスのシェルを600ドルで買いました。いや、買わされた(笑)。先輩いわく、雨はシェルで対応するのがクールなんだと。これも街で着るアウトドアの原体験かもしれません」。

もちろんビームスにとってもアークテリクスは特別なブランドだ。「’98年に日本のセレクトショップとして初めて取り扱ったのを皮切りに、2001年から定期的に別注商品を企画しています。今季リリースしたモノトーンのクレイジーカラーのシェルは、都会の迷彩柄をテーマに製作したもの。黒が好きな人のために“ハレの日の黒”を作ってみたかった。

僕は高校生の頃から街でアウトドアウェアを着続けていますが、最近は皆さんがアウトドアウェアの良さに気付き始めている気がします。’90年代当時よりも裾野が広がっていて、スタイルとして定着してきている。今シーズンっぽく着たいなら、トップスは大きめでボトムスはジャストフィットのバランスがいいと思います」。

なかだしんすけ●栃木県出身。2000年、ビームスに入社。「ビームス プラス 原宿」のオープニングスタッフとして参画し、オリジナルアイテムの企画やバイイングなどに携わる。その後、2012年よりビームス プラスのディレクターを経て’16年より現職。

 

清水健吾=写真 増田海治郎、今野 壘=文

# アークテリクス# アウトドアウェア# インタビュー
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