OCEANS

SHARE

2018.04.19

ファッション

1本のコードから作る「キーン」のユニークなサンダル誕生秘話

既成概念を覆すハイブリッドなフットウェアを作り出してきたキーン。創業者の息子であるローリー・ファースト・ジュニア氏もまた、日々「新しいシューズ」への挑戦を続けている。
コード(紐)で編んだアッパーを持つ、一風変わったフットウェアを目にしたことはないだろうか。サンダルとシューズのハイブリッドとでも呼ぶべき斬新な見た目。そして抜群のフィット感と軽さ。こんな高いデザイン性と優れた機能を備えたフットウェアを、キーンは世に送り続けている。今回、その開発を担当したチーフ・プロダクトデザイナーを直撃した。
キーンとは?
2003年にスタートした、米オレゴン州ポートランドに本拠を構えるアウトドアフットウェア・ブランド。つま先を保護するサンダル「ニューポート」がブランド初の製品だ。「デザインによって問題を解決する」という視点でフットウェアを開発。地球のすべての場所を、その場所を見つけたときよりも美しくして去ることをモットーにしているキーンは、「Giving Back:社会への還元」、「Taking Action:市民運動」、「Reducing Impact:環境負荷の低減」の3つのテーマを『KEEN EFFECT(キーン・エフェクト)』と称し、 わたしたちの暮らす地球や社会の環境保護活動や、 社会貢献活動に積極的に取り組んでいることでも知られています。

「絶対あきらめない。それが唯一の解決策です」

チーフ・プロダクトデザイナー、ローリー・ファースト・ジュニア氏。キーンの創業者、ローリー・ファーストの長男。幼少期から父の仕事を傍らで見てきた彼は、10代後半よりキーンで働き始める。2006年より、フットウェアのデザイン開発と、その商品化に携わる。その後、チーフ・プロダクトデザイナーとしてイノベーション・グループに所属し、常に新しいアイデアによる靴作りを探求している。’14年に「ユニーク オーツー」の前身となるハイブリッドシューズ、「ユニーク」を発表。休日はトレイルランニングや読書、家族とのひとときを楽しんでいる。
「私の所属するイノベーション・グループは、“今までとまったく異なる靴作りの手法”を日々模索している部署です。前作“ユニーク(※1)”の開発は、足という立体物を、レザーや布帛などの平面的な素材で覆うことへの疑問から始まっています。あるスタッフの“コードを使っては?”というアイデアが発端。これは妙案だと思いました。早速、木型に釘を打ち、タコ糸を巻きつけ、手に血をにじませながら(笑)、見た目もフィット感も優れる編み方を試行錯誤しました。気付けば3年半という時間が経過していました」。
苦労の末に生まれたのが、「2コード・コンストラクション」。2本のコードと1枚のフットベッドによる、複雑に見えてシンプルな構造である。
「レースステイ側に固定したコードとフットベッド側に固定したコード、この2本がループ状に交差しているだけなんです。しかしながら、これが関節のような役割を果たし、完璧なフィット感と伸縮性、そして独特なデザインをもたらしてくれます」。
ほかに類を見ない発想。当初社内でも賛否両論だったというデザインは、今やブランドの顔といえる存在になっている。そんな製品作りに対する熱い思いの源には、父の影響がある。
「何があっても絶対にあきらめない。父の姿を見て私がいちばんに感じたことです。父が作った、ブランドのデビュー作である“ニューポート(※2)”はつま先を保護するサンダルという画期的なもの。登場したときは“ユニーク”同様、賛否両論ありました。けれど、強い信念でブランドを支えるヒット作に仕上げたんです。17歳からブランドに関わっている僕の目には、今も父のその姿が焼きついています」。
イノベイティブなプロダクトに注目が集まるが、社会貢献や自然保護活動(※3)に熱心な企業としても知られている。
「ポートランドは魅力的な街。都会ですが、周囲には自然が溢れています。当然、環境保護への意識も高いんです。環境が破壊され続けたら、人間が生きるのは困難になる。そうなれば極端な話、靴を作ることなんてできません。自然が身近にある私たちだけでなく、都会暮らしの人々にも自然の大切さを感じてほしい。アウトドアにおいてはもちろん、街でキーンを履くことだって、自然保護にコミットしている証しになる。そう考えているんです」。
 
ユニーク(※1)
2014年に登場した、フットウェア業界に革命をもたらしたモデル。コードを編み込んで作られたアッパーは自在に形を変え、履いたそのときからピッタリと足にフィットする。
ニューポート(※2)
2003年に誕生したブランドの第1作。つま先が無防備なアウトドアサンダルが主流だった当時、トウをラバーで包んで保護する本作を発表。ブランドのイノベーションの原点的な存在。
社会貢献や自然保護活動(※3)
「キーン・エフェクト」と銘打ち、災害支援等の社会貢献や、フィールド保護活動を推進。キーンの理念に賛同し、条件を満たしたNPO法人に対して助成金を寄付する試みなどを行っている。
髙村将司=文


SHARE

次の記事を読み込んでいます。