数年前にヴェトモンを率いるデムナ・ヴァザリアが投げかけた「普遍的な現代のリアリティに目を向ける」という視点は、同業者に大きな影響を与えた。そしてその流れは、今シーズンも継続している。
先の言葉をわかりやすく言えば“肉体労働讃歌”で、DHLのロゴマークや、交通誘導員の反射テープ、古着屋の特売コーナーで売ってそうなふた昔前のレギュラーデニムは、デムナの手によって“COOL”に生まれ変わった。今季のランウェイのデニムトレンドは、その「ふた昔前のレギュラーデニム」と「古き佳き時代のアメリカの労働着」のふたつだ。
バレンシアガのGジャンに見る、デムナのクリエイティブ現在形
デムナが手掛けるバレンシアガのGジャンを見てほしい。クリーニングのビニールにインスパイアされ、ラミネートされた強烈な変化球が加えられているとはいえ、ベースのGジャンはベーシック以外の何物でもない。
グッチは“飾らないデニム”を提示
豪奢なクリエーションが持ち味のグッチのアレッサンドロ・ミケーレも、やや大きめの古着の501を無造作にロールアップしたような“飾らないデニム”を打ち出している。
ラフ・シモンズによる「アメリカ」なデニム
一方、ラフ・シモンズは「カルバン・クライン205W39NYC」で、1970〜’80年代のアメリカのデニム専業メーカーを連想させるものを提案した。プリントがあることで「ファッション」になっているが、プリントなしだともはや古着屋に並ぶデッドストックのようだ。
老舗デニムブランドを解体→再構築
ワークウェアのアレンジを得意とするコム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マンも、アメリカンワークの色彩を濃くしている。カーハートのブラウンダックの洪水の中で主張するデニムのカバーオールは、リーとのダブルネームだ。
復権を狙うエレガントデニム
こうした主流派への唯一に近い対抗馬は、デニムをテーラードのようにアレンジしたヴァレンティノだろう。このようなキレイめのデニムが“野暮カッコいい”を駆逐する日はいつか来るはず。
だが、先日行われた2018-19年秋冬コレクションを見る限り、それはもう少し先のこととなりそうだ。’70年代風のフレアは気にしておいたほうがいいけどね。
増田海治郎=文