2020.02.24
FAMILY

高校からでもトップアスリートに!? 幼少期から本格的にスポーツをさせることの弊害

連載●子供のスポーツ新常識
子供の体力低下が嘆かれる一方で、若き天才アスリートも多く誕生している昨今。子供とスポーツの関係性は気になるトピックだ。そこで、ジュニア世代の指導者を育成する活動を行っている、桐蔭横浜大学教授の桜井智野風先生に、子供の才能や夢を賢くサポートしていくための “新常識”を紹介してもらう。

子供のスポーツ新常識

東京オリンピック・パラリンピックを目前に、さまざまなスポーツにスポットが当てられています。卓球、水泳、体操をはじめ、プロが存在するサッカー、ゴルフ、野球と、幼少から競技を開始し、ジュニア時代には日本のトップとして活躍してきたアスリートたちが注目される機会が多くなっています。彼らの多くは、小・中学校のころから全国レベルでいち早く活躍していた選手です。

子供たちを指導するコーチや親の心情としては、「うちの子も小さい頃からみっちりやれば、世界に羽ばたくスーパーアスリートになれるのかしら……?」と考えたくなる気持ちも理解できないわけではありません。

しかし、幼少〜ジュニア期から専門的かつ本格的にスポーツに取り組ませることは、将来の競技成績に大きく影響するのでしょうか?

中学で燃え尽きて高校でスポーツをやめる子が少なくない

下の図1は、2017年度の中学、高校の運動部への所属率を示しています。中学校で男女平均すると7割弱の生徒が運動部に参加しているにもかかわらず、高校へ進学するとその割合は男女平均で4割に減ってしまう結果が見て取れます。

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図1:2017年度の中学、高等学校の運動部への所属率。(スポーツ庁資料より)

日本は小さな国で、全国大会を開催することが容易です。例えば中学で全国大会を目指す指導者は、幼児〜小学生の時期から、なりふり構わず子供たちを専門的なトレーニングへと追い込みます。そして、親も「全国大会出場」という名誉のためにそれを容認してしまう風潮があることも事実です。

そんな指導者や親の元でスポーツをしている子は、中学生ともなれば質、量ともにかなり高いレベルのトレーニングを要求される。そうなると、いくら全国大会に行っても、子供たちの心から「楽しさ」が失なわれ、スポーツから離れてしまうのです。

また近年、家庭の経済状況が学力や体力の差に影響するという報告も見られ、高校に入ると経済的な理由のためアルバイトに時間を割き、好きな部活動を継続できない子も少なくないのです。

将来、スーパーアスリートになりたいのに、中学〜高校期でスポーツを継続できなければ話になりません。幼少〜ジュニア期のトレーニングや競技の在り方が、中学〜高校に進んでからのスポーツ参加に大きな影響を及ぼすことを考えると、幼い頃は「スポーツは楽しいから続けたい」と感じさせることを優先させるべき、と言えるでしょう。

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スポーツが好きなら、高校からでも大成する可能性がある

しかし、スポーツの種目によって、選手としての完成形を迎える年齢は当然まちまちです。前述した卓球、水泳、体操、サッカー、ゴルフ、野球に共通する点は何か? それは道具をうまく使いこなすことや、特異的で非日常的な動作が含まれるスポーツである、ということ。

単に走ったりボールを直接手で扱うだけではなく、最初に覚えなければならない技術的な要因が非常に複雑なスポーツなのです。

図2をご覧ください。2008年の北京オリンピックに出場したさまざまな種目の選手が、その種目を専門的に始めた年齢をグラフにしたものです。私たちがこれまで、「スポーツを始めたほうが良い」と思っている年齢、すなわち小学校の低~中学年時代に始めていなくとも、十分にオリンピックで活躍できる種目が多く含まれています。

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図2:オリンピックに出場した選手がその種目を専門的に始めた年齢。

また、すべてのスポーツの基礎となる陸上競技などは、日常から行っている動作の延長線上にあり、技術的にもあまり複雑な要素を含まないため、それまでほかのスポーツ種目を行ったあとに高校生から専門的に始めても、十分にオリンピック選手になれる可能性があることがわかります。

近年では日本の十八番となった400mリレーですが、その選手のほとんどが、中学時代までは陸上競技を専門としていません。サッカーや野球など、ほかの種目から、高校に入って転向してきた選手たちです。

つまり、その種目をどれだけ早く始めたか、ということはあまり関係なく、幼少期からさまざまなスポーツに取り組ませる中で、いかにその楽しさを伝え、「飽きさせない」ようにするかが、我が子がスーパーアスリートになる、“大前提”と言えます。

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早生まれの体力的ハンディは高校でチャラになる

ここでもう1点、お子さんの誕生日は当然ご存知だと思いますが、それがスポーツ活動に大きく影響するということを考えたことはありますか?

図3の折れ線グラフはプロ野球とサッカーJ1リーグの生まれ月別の選手数、およびプロ野球選手の生まれ月別タイトル獲得数を示したものです。

野球もサッカーも、プロ選手は同じ学年でも遅く生まれるに従って選手数が少ないことがわかります。何故でしょうか?

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図3:プロ野球とサッカーJ1リーグの生まれ月別選手数および、プロ野球選手の生まれ月別タイトル獲得数。

子供の頃は、早生まれ(1〜3月生まれ)の子は遅生まれ子(特に4〜6月期)と比較して、約1年の年齢差がありますから、確かに体力面で劣るケースが多くあります。

しかし、そこで、「能力が低い」と勘違いして、「スポーツが苦手」だと思ってしまうのは早計です。幼少期の生まれ月による体力差は、高校あたりになると、ほぼなくなります。

にも関わらず、早生まれの子が幼少期に「まわりと比べて自分は体力が劣っている」と思ってしまい、スポーツが嫌いになって辞めてしまうケースがあるのは残念なことです。これは子供側の問題というより、親やコーチなどの大人側の問題でしょう。幼少期に体力低いのは、その子の本来の能力ではないことを理解し、「うまくできること」ではなく、「苦手なりにも少しずつできるようになっていること」を褒めてあげることが大切だと思います。

楽しんで続けていれば、いずれ遅生まれの子供に追いつける可能性もあるのですから。図3の棒グラフで、プロ野球でタイトルを取った選手の生まれ月を見てください。エリートの集まりであるプロの世界でタイトルを獲得するような選手は、早生まれの割合の方が高いのです。続けることで追いつき、将来逆転するケースも少なくない、ということを覚えておいてください。

将来、どんな種目に絞るとしても、子供たちの身体は大人の縮小版ではありません。いち早くスポーツ選手として仕上げるために、大人の一流選手がやっているトレーニングをやらせても、それは子供の身体にとって必要以上の負担となり、故障ばかりか「スポーツって楽しい!」という純粋な心を折ってしまうことにもつながりかねません。大人の焦りやエゴは、逆効果になりかねないことをどうか忘れないでください。

こんなデータもあります。成人男性600名程度を対象に調査した結果、年収が上がるほど、学生時代に運動部に所属していた割合が高いというものです。特に年収700万円以上になると、じつに5割以上の人たちが学生時代に運動部に所属していたという報告もあります。スーパーアスリートになれなかったとしても、長く、そして楽しくスポーツを続けられるような環境をつくってあげることは、子供たちの将来にとって、決して無駄なことではないと考えます。

桜井智野風=文
桐蔭横浜大学 教授。同大大学院スポーツ科学研究科長。運動生理学 博士。公益財団法人 日本陸上競技連盟 指導者育成委員会コミッティーディレクター。スポーツの強化策としては、「ジュニア世代と接する理解ある指導者や親を育てることが一番重要である」という考えのもと、ジュニア対象の指導者育成のために全国を飛び回っている。

# スポーツ# 子供のスポーツ新常識# 子育て
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