2018.06.14
FAMILY

「勝ち組パパ」の女性蔑視が、偏差値主義から娘を救う皮肉

父親と中学受験 Vol.3
「仕事ができる父親ほど、子育てに苦手意識がある」。そんな傾向があることは、昔から根強く囁かれている。仕事で結果を出すための手法と、子供の素質を伸ばすための手法が相反することが多いからだ。しかし、いざ「中学受験」となると、子供と共通目標を立てて合格という結果を得るために、自分のビジネスノウハウが活きてくるはず! と意気込む父親も多い。実は「中学受験」には大きな落とし穴があるとも知らずに……。
この連載では、年頃の子供がいるオーシャンズ世代の父親が「中学受験に関わるときに注意すべきこと」を、教育・育児ジャーナリストのおおたとしまさ氏に直言してもらいます。

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子供の偏差値も自分を着飾るアクセサリーにしてしまう

ニッポンのビジネスマンはまるで階級社会である。どんな大学を出ているのか。どんな会社のどんな役職に就いているのか。年収はどれくらいなのか。特に男性は、そんなことをつい他人と比べて、ほっとしたり、卑屈になったりしてしまう。競争社会を勝ち残ってこそ男だというような価値観が根強いからだ。

まだ若いころであれば、どんなクルマに乗っているのか、どんな腕時計をしているのか、そしてどんな女性と付き合っているのかということにさえ、競争意識を燃やすことがある。車も腕時計も付き合う女性も、自分を着飾るアイテム。だから、より他人に自慢できそうなものがあれば、簡単に取り替える。

普通はどこかのタイミングで気付く。どんな派手なクルマに乗っているのかよりも、そのクルマをどれだけ大事にしているのかが大切だと。街中の注目を集める女性と歩いたり、たくさんの女性からモテたりすることよりも、長い時間をかけてひとりの女性とともにどれだけ成長することができるかが本当の喜びであると。

「結果」よりも「プロセス」そのものの中に価値がある。それがビジネスと人生の違いであるとわかる。すると、所属する会社の大きさや役職の高さ、出身大学などもさしたる問題ではないことにも気付けるようになる。

しかし不幸にもそれに気付けないまま親という立場になってしまうと、子供にも、他人から見えやすい「結果」ばかりを求めるようになる。偏差値60以上を維持しなさい、塾ではAクラス以上に入りなさい、御三家か早慶以上の学校でないと意味がない……。子供の「頑張り」が見えなくなる。

子供の偏差値や塾のクラス、そして通う学校までも、自分を着飾るアクセサリーにしてしまう。意識的にそう考えているわけではない。国産のファミリーカーではなんとなくカッコ悪いと思ってしまうくらいの感覚で、子供の偏差値を気にする。自分のアクセサリーとしてふさわしいようにと、子供に頑張らせる。

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父親の女性蔑視が娘を救うという皮肉

偏差値や塾のクラスや合格した学校名で自分の価値が評価される。そんな家庭にいたら、子供自身も偏差値や塾のクラスや学校名でひとの価値を推し量るようになる。

そのまま年をとれば、どんな大学を出ているのか、どんな会社のどんな役職に就いているのか、年収はどれくらいなのかを気にする人になる。どんなクルマに乗っているのか、どんな腕時計をしているのか、そしてどんな異性と付き合っているのかを、自分のステータスだと思うようになる。可視化できる価値軸で人を比べる人間観の再生産である。

娘の場合は、皮肉なところに救いがある。「競争社会の中で勝ち残ってこそ男だ」という信念をもっている父親は逆に、娘には競争社会の中で勝ち残ることを過度には求めない。女性差別にほかならないが、それが娘への負荷を軽減する。

しかし息子の場合、その信念の直撃を受ける。「勝ち組」を自認する父親のもとでは、期待はさらに大きくなる。期待とプレッシャーは紙一重だ。

「偏差値60以上の学校じゃないと意味がない」「東大に20人以上入っている学校じゃないと意味がない」というような気持ちがあるのなら、子供に中学受験をさせるのはやめたほうがいい。そのような「結果」だけを見る視点からは、中学受験を通じた親子の成長に気付けず、過酷なだけの中学受験になってしまうからだ。

すでに中学受験勉強を始めており、子供の成績に“納得がいかない”という“症状”が出ていたら、まず正すべきは子供の成績ではなくて、子供の成績を自分の“勲章”だと思ってしまう自分の価値観かもしれない。

おおたとしまさ
「子供が“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。
今、子供と一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。中学受験を親子にとっていい経験にする方法、子育て夫婦のパートナーシップ、男性の育児・教育、無駄に叱らない子育てなどについて、執筆・講演を行う傍ら、新聞・雑誌へのコメント掲載、メディア出演にも対応している。著書は 『ルポ塾歴社会』、『追いつめる親』、『名門校とは何か?』など50冊以上。近著は『開成・灘・麻布・東大寺・武蔵は転ばせて伸ばす』 (祥伝社新書)

# 偏差値# 父親と中学受験
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