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2017.09.22

かぞく

一度生殖をした相手に嫌悪感を抱くのは、女性の本能


家庭で男性が家事育児を担うのは、もはや常識とも言えるようになった昨今。しかし、「自分はこんなに家事育児を分担しているのに、奥さんになぜだかいつもイラっとされている」というパパの声がある一方で、ママからは「もう夫に期待するのはやめました」という声。そこで、この連載では、これまで私が多くのママたちから聞いた話を元に、テーマ別に事例を挙げて、ママがどんなときに、なぜパパにイラっとするのかを解説していきます。
「自己評価の高いパパ」と「いつも何かが不満なママ」を最初から読む

「自分はこんなに家事育児を分担しているのに、奥さんになぜだかいつもイラっとされている」というパパに向けて、女性がどんなポイントでイラッとしているのかを解説してきたこの連載。今回番外編として、感性アナリストの黒川伊保子さんに、女性のイライラの原因と、そんな時男性はどう対応したらいいのかを教えてもらいました。黒川さんは、 人工知能の開発に携わった経験を持ち、数多くの著作の中で、男女脳の違いからくる男女のトラブルやもめ事の原因と解決法を、科学的視点で綴っています。

出産後の妻が夫にイラつくのは、自然界の生存競争に勝つため

出産前はラブラブだったのに、出産後、なぜ夫にこれほどまでにイライラするのか。私たち女性も不思議に感じますし、ちょっと夫に申し訳ないとすら感じることもあるのですが、それでもイライラを止められない。この理由はなぜでしょうか? 何か脳に変化が起こっているのでしょうか?
「出産後でホルモンバランスが悪いとか、疲れているというのももちろんあるのですが、出産後の女性が夫に対して嫌悪感を抱くのは、遺伝子を残していこうとする生物として、ある意味当然と言える行動なんです。なぜなら、一度生殖をした相手からは逃げたいと思うのが、メスとしての本能。次の生殖は、別の遺伝子のセットにしたほうが、子孫の生存可能性が増すわけですから、生殖後は、すでに子どもを作った相手とは離れようとするわけです」
なるほど! よく周りのママ友たちから、「出産後、夫に近づかれるのも嫌。触らないでっ!という気分になって自分でもショック」なんて言葉をよく耳にしましたが、それは脳から「この相手からは逃げろ」という指令が出ているからだったんですね。
「ザトウクジラを例にとると、ザトウクジラの世界では妊娠中のメスが一番モテるんです。その次にすでに妊娠出産経験があるメス。一番モテないのが、まだ妊娠したことがない若いメスなんです。人間の世界と正反対ですよね(笑)。なぜなら、自然界では妊娠をできない個体が多いので、妊娠できるということが重要なのです。クジラの研究者から聞いた話によると、妊娠したメスは、その相手とはすぐに別れ、言い寄ってきた別のオスとカップルになるそうです。そして、そのオスが妊娠中から授乳・子育て期間中、ずっとサポートするんですって。その後、子離れすると1カ月ほどのハネムーンに出て、そのオスの子を宿すのです」
へー、なんだか羨ましいですね、ザトウクジラのメス。そういうわけで、人間も女性が出産後に夫に対していつもイライラしていたり、当たったりするのは、ある意味しかたがないことだそう。人によりますが、数年経てばまた、夫に対するイライラや嫌悪感も落ち着くそうです。
「数年も!? と絶望的になるかもしれませんが、人間は『考える脳』も発達していますから、家事や育児を支えてくれたり、優しいねぎらいのことばをもらったりすれば、イライラを乗り越えて、情がわき、絆が生まれます。
逆に言えば、子どもが生まれてからの数年間が、夫婦としての勝負時といえます。男女の恋情から、人間同士の深い絆へ。妻側も、イラつきにまかせて、ひどい仕打ちをしていたら、本当の夫婦にはなれません」
確かに、この話を聞いて納得感を得られた一方で、妻たちから冷たくされる男性が哀れに思えてきました。私ももう少し夫に優しくしようと思います。

程よくヘマをするのは、妻へのサービス

ザトウクジラと違い、人間の場合は一夫一婦制なので、いつもイライラしている妻と暮らしていかなければなりません。その時期、夫は妻に対してどう対応すればいいのでしょうか?
「この時期の妻は、無意識のうちに夫を攻撃したがっているので、たとえ夫がどんなに完璧に家事をやっても、完璧すぎたことにからんできたり、どこかしら粗探しをしてくると思います。だから、残念ながらそれを解決する方法は無いのですが、そんな中でも一番の落とし所は、妻が噛み付いてくる隙を作ること。イライラを発散させてあげるくらいマヌケになることかなと思います。『本当にあなたって何をやらせてもダメね!』などと責めてきたら『あー俺は本当にダメだなぁ。お前がいないと生きていけないなぁ』と言いましょう」
なるほど! 完璧になろうと頑張るのではなく、逆に、ヘマをして妻を怒らせることで、妻の心の中に渦巻くイライラを発散させるのですね。さらにそこで「お前がいないと俺って本当にダメだなあ」と言う。確かに、これを言われると「もうしょうがないわねえ……」という気持ちになる女性が多いと思います。
程よくヘマをするのは妻へのサービスだと思って、イライラを発散させてあげましょう。それが夫婦円満の秘訣だそうです。
後編では、男性が家事育児をどう分担すればいいのか、また、妻にキレられた時の正しい回答例などを教えてもらいます。
(プロフィール)
黒川伊保子さん
株式会社感性リサーチ代表取締役。人工知能研究者/脳科学コメンテイター/感性アナリスト。エッセイスト。奈良女子大学理学部物理学科卒業後、富士通ソーシアルサイエンスラボラトリにて、14年にわたり人工知能(AI)の研究開発に従事。その後、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である『サブリミナル・インプレッション導出法』を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した、感性分析の第一人者である。また、脳の違いから起こる男女のすれ違いを書いた数々の著作は人気を博し、雑誌やテレビのコメンテイターとしても活躍中。著書に『女の機嫌の直し方』(集英社インターナショナル新書)、『理不尽な女 鈍感な男』(幻冬社)、『家族脳』(新潮文庫)など。
文/相馬由子
編集者、ライター。合同会社ディライトフル代表。子育てをテーマにした雑誌、ウェブ、書籍などの企画・編集・執筆を手がける。2017年より某育児・教育系ウェブメディアの編集長を務めている。再来年に娘の小学校入学を控え、学童に入れるのかが目下の悩み。
佐野さくら=イラスト
 


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