乗りたかったのは、キブンが乗るクルマ Vol.288
2021.10.03
CAR

BMWが創った侘び寂び「X7」。次なるラグジュアリーは“情緒を満たす”こと

ラグジュアリーな車というと従来は、ギラっとした車体で、たっぷたぷの本革シートに木目パネル、みたいなテイストをイメージするかもしれない。

しかしBMW ジャパンが発表した最高峰のラグジュアリーカーは少し違った。

BMW X7西陣エディション
BMW X7西陣エディション。ベースは3Lディーゼルターボとマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた「BMW X7 xDrive40dピュアエクセレンス」。ビッグサイズながら軽快な走りと、常に綺麗な舗装路を走っているかのようなウルトラスムーズな乗り心地が味わえる。

BMWがフィーチャーしたのは「西陣織」。

そう聞けば、ギラっとどころか絢爛豪華な予感すらするが、9月に発表されたBMW ジャパンの「日本の名匠プロジェクト」第3弾、「BMW X7西陣エディション」は左にあらず。

そう、実際に見ると味わい深い芸術品のようなのだ。写真では文様を見せるためにあえてクリアに表現されているが、実際は光や影の作られ方でなんとも言えない荘厳な表情に変わる。

そこには豊臣秀吉の金の茶室のような艶やかさはなく、どちらかといえば秀吉に処分された利休の侘び寂の世界観。

300年以上続く西陣の「引箔」が施されたインテリアトリム。手掛けたのは京都・西陣の楽芸工房。

車と他業種のコラボレーションはこれまでもいくつかあったが、車にファッションブランドが意匠を施す程度ではなく、お互いが技を競う“作品”のよう。台数もわずか3台の限定販売となる。

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調和する日独の最高峰

「日本の名匠プロジェクト」の集大成となる今回のBMW X7西陣エディションでは「日独の技を融合し、優雅で全く新しいラグジュアリー」をテーマに開発された。

「光の移ろい」をコンセプトに、それぞれが「新しいラグジュアリー空間」を追求したという。

白い絹糸で表現された「卿雲(けいうん)」が美しいセンターアームレスト。手掛けたのは1889年創業の老舗西陣織メーカーである加納幸。

まずドイツ側のBMWは、特別な一台を顧客とともに作り出すオーダーメイドプログラムの「BMW Individual」からアメトリンというボディカラーを採用した。

BMW Individualのボディカラーは複数の顔料をドイツ職人が巧みに扱い、多層塗りによる深みのある色彩を実現するのが特徴だが、なかでもこのアメトリンは従来合わせて使うことのなかった素材を組み合わせ、光の加減によって目にする色が変わるという不思議な色。

季節や時間、天候、木陰や雲間といったあらゆる「光」の移ろいを「色」で表現するようなボディカラーだ。

光の移ろいが感じやすいよう、大型サンルーフが備わる。難燃基準の関係で市販車には搭載されないが、西陣織のルーフライナーを備えた一台も公開された。

一方の西陣チームは、まず本来は和紙に施す箔をインテリアトリムに直接装飾。「五色金重ね」という、金銀箔や顔料を表面に塗っては全体を塗りつぶすという加飾行程を繰り返すことで、色彩に深みを出している。

金銀箔といっても絢爛豪華とは真逆の、とても落ち着いた煌めき。もともと箔の技術は光の採り入れ方を最も重視する技法で、光によって見え方が変わることを重要視した技法なんだとか。

さらに経年によっても渋みが加わるなど見え方が変わってくるのだという。

センターアームレストも西陣織。事前に箔処理が施されたメリノレザーを、極めて細く、糸ほどの細さに裁断して、西陣織の帯のように織って製作された。

しかも「卿雲(けいうん)」と呼ばれる、太平の世に現れるという美しくめでたい雲も立体模様として織り込まれたことで、走行中の日の入角度や夜の星の光など、光源の移ろいに応じて多様な表情を湛えてくれる。

自分にとっての寛ぎを

X7のクリスタル製シフトノブや落ち着いた煌めきのシルバーの縁取りが、引箔技法と見事に調和している。

自動運転を初めとしたCASE時代において、次の車のラグジュアリーとは、こうした情緒で満足できることではないかとBMW ジャパンは言う。BMWが掲げている「駆け抜ける歓び」は、「人生を駆け抜ける歓び」でもあるというわけ。

この「日本の名匠プロジェクト」シリーズはBMWジャパンが企画したプロジェクトで、制作された車は日本でしか販売されない。

つまり限定3台とは世界限定3台ということでもある。それもあってだろう、第一弾と第二弾は速攻で完売。1680万円〜のこの第3弾も、既に売れてしまっているかもしれない。

ただ、BMW Individualであればアメトリンはいつでも選ぶことができる。内装も、オートクチュールでカスタム可能だ。

例えば西陣織でなくても「どんな車が自分にとっての寛ぎになるのか?」。そんな自分だけのラグジュアリーを考えるきっかけを、我々に与えてくれる一台なのだ。

 

籠島康弘=文

# BMW# BMW Individual# X7# 西陣織
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