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2021.03.24

日産なのにカリフォルニア生まれ!? 今、国内で入手困難な「テラノ」の数奇な運命

「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……

vol.19:「テラノ」
日産、1986年〜

1980年代に、アメリカ西海岸ではピックアップトラックの荷台をカスタマイズすることが流行。
ライバルのハイラックスサーフが荷台に脱着可能なキャノピーを載せただけなのに対し、テラノはワゴンのようにボディとルーフを一体化した。原稿執筆時点での中古車台数は1ケタと非常に少なく、価格も60万〜300万円とバラツキがある。
これを受けて、1986年に日産がアメリカで大人気だったダットサントラックをベースとした初代の「テラノ」をデビューさせる。
当初は3ドアのみだった初代テラノ。横スリットが上部に3本入ったグリルと、後席用の三角窓が備わるなど、個性的なデザインが採用された。
インテリアも直線基調。副変速機を備えたパートタイム式4WD。
搭載されたエンジンは2.7Lのディーゼル。これに5速MTが組み合わされた。名車ダットサントラックがベースなだけに、パートタイム式4WDシステムが採用されるなど高いオフロード性能を備えた一方で、乗用車同様の足回りが与えられたことでオンロードでの乗り心地も快適な車に仕上がった。
北米では「パスファインダー」の名前で販売され、両車は一気に人気車へと上り詰めていったが、日本でのセールスは、当初それほど芳しくはなかった。
転機となったのは、1987年に3Lガソリンエンジン搭載モデルが追加された頃。
折しも三菱の初代パジェロが高級車路線への変更で成功し、パジェロブームやRVブームが巻き起こったタイミングで、動力性能的に余裕のあるテラノが見直され、ダットサンとは異なる乗用車的な足回りと、ダットサン譲りの悪路走破性から一気に売れ始めた。
さらに5ドアモデルやディーゼルターボエンジン搭載車も追加され、一時は当時大人気だったライバルのハイラックスサーフを上回るセールスを記録した。
前席を倒せば、大人が横になることができる。後席に備わる三角窓は開閉可能。
人気が急上昇するなか、ハイラックスサーフは1989年に2代目へと進化。
ところがテラノは、言わば“本場”で販売されていたベースのダットサンやパスファインダーのセールスが好調で、さらに日本でも売れていたこともあり、モデルチェンジの機を逸し、ようやく2代目が登場したのは発売開始から9年後の1995年のことだった。
しかし1990年代の終わり頃から日本でのRVブームがミニバンブームへと移行していくと、テラノの販売は低迷。パスファインダーが今もアメリカで代を重ねながら販売されているのとは対照的に、テラノは、日本では既に絶版となっている。
しかし30年以上の時を経て、初代テラノの’80年代のアメリカンなデザインが日本で見直されている。台数が少ないこともあり、コンディションの良い個体なら200万円以上の値がつくこともある。
5ドアモデルの後席ドアノブは、窓の横(ブラックの部分)に配置されている。
実は、初代テラノのデザインは日本ではなく、カリフォルニアにある「NDI(日産デザインインターナショナル)に任された。
何しろ当時の日本では「SUV」はもちろん、「RV(レクリエーショナル・ヴィークル)」という言葉もまだ定着していなかった頃だ。おりしもバブル景気が始まり、好景気に浮かれていく中で「ピックアップトラックを改装」したような車が当時の日本人にあまり理解されにくかったのは無理もない。
しかしそんな時代背景のおかげで、ブームのど真ん中にいたカリフォルニアのチームがデザインでき、今、国内でその独自のスタイルで再ブレイクを果たしている。時代に翻弄されたこの数奇な運命も、テラノの魅力のひとつなのだ。
「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……
“今”を手軽に楽しむのが中古。“昔”を慈しむのが旧車だとしたら、これらの車はちょうどその間。好景気に沸き、グローバル化もまだ先の1980〜’90年代、自動車メーカーは今よりもそれぞれの信念に邁進していた。その頃に作られた車は、今でも立派に使えて、しかも慈しみを覚える名車が数多くあるのだ。上に戻る
籠島康弘=文
※中古車平均価格は編集部調べ。


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