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2020.08.16

ボルボ「850」いまだファンの多い“四角いワゴン”は歴史まで格好いい!

「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……

vol.11:「850シリーズ」
ボルボ、1991年〜2000年

「240」シリーズが武骨な四角だとすれば、「700」シリーズやその後継である900シリーズは洗練されたエレガントな四角。
そして「850」シリーズは、スポーティな四角と言い分けてよいだろう。
「4つの世界初を備えた」と謳いデビューした「850」。4つの新しい特徴とは、「横置き直列5気筒エンジン」、ボルボ独自の「デルタリンクリアアクスル」「サイドインパクト・プロテクション・システム(SIPS)構造」、そして「自動調節式フロント・シートベルト」を指す。
ただし「850」はほかの“四角”と決定的に異なる点がある。
それはほかがFR(エンジンを前に置き後輪を駆動させる)なのに対し、「850」はFF(エンジンを前に置き前輪を駆動させる)を採用したことだ。四角いボルボの最終形は、新世代ボルボの入り口でもあった。
「850」以降、ボルボは全車をFFまたはFFをベースとした4WDのみとした。FRは前にあるエンジンから後輪を駆動させるためにプロペラシャフトが必要になり、それを通すためのトンネルが車内に出っ張る(だから後席の中央はトンネルをまたいで座る)。
しかしFFではプロペラシャフトが不要なので室内を広くできるメリットがある。またこうしたパーツも減るので、製造コストも抑えやすい。あるいは抑えたコストでほかの部分に予算をかけられるなど、利点はあれこれ。
「850エステート」は、イタリアの「最も美しいエステート」賞や日本の「1994年グッドデザイン大賞」などを受賞。
FRとFFの分水嶺となった「850」。日本にはセダンが1991年から、ワゴンのエステートは1993年から投入された。
「240」シリーズより上級モデルの「700」シリーズは1982年に、それに続く「900」シリーズが1990年にデビューしたが、その翌年にようやく待望の、「240」シリーズの後継が現れたことになる。
直列5気筒エンジンや新開発の足回りなど、従来のFRボルボとの共通点がほぼない「850」シリーズだが、それまでのボルボらしい角張ったボディは共通。これが良かったのだろう、もともと「240」シリーズが気になってはいたけど、デビューが古い(1974年)こともあってためらっていた(あるいは知らなかった)人も惹きつけ、特にエステートはあっという間に大ヒット。
おかげでボルボの名前が日本に広く知られるようになった。
“四角”を活かしたスクエアなエステートのラゲージ。
さらに1994年には世界初のサイドエアバッグを採用するなど、安全性をアピールしたことも、ボルボ人気を確固たるものにしていく。
「850」は側面衝突吸収システムやサイドエアバッグを世界で初めて採用。さらに後席中央部に、収納可能はジュニアシート(写真)を装備した。
その一方で、レースで“空飛ぶレンガ”と評された「240」シリーズの意思を継ぐように、「850」も1994年にツーリングカー選手権に参戦。しかもセダンではなく、エステートで参戦したのだ。
並みいるスポーツセダンと戦った「850エステート」。
それに合わせて1995年に特別仕様車「T-5R」が販売された。これはベースであるターボモデル(T5)の出力を高め、足回りをレース界の著名レーサー兼レーシングチーム「TWR」のオーナーであり、「850エステート」でボルボと一緒にレースを戦ったトム・ウォーキンショーが開発したスペシャルモデルで、瞬く間に完売した。
この「T-5R」のおかげで「ボルボって意外とスポーティじゃん」というイメージを与えることに成功した。
ボルボ=スポーティというイメージを広めた「T-5R」。
1996年に1800カ所にも及ぶマイナーチェンジを受け、セダンが「S70」に、エステートが「V70」と名前が変わった。
またこのときボルボ初となる4WDモデル(AWD=オール・ホイール・ドライブとしている)も登場。さらに1998年には、エステートの車高を高くして悪路走破性を高めたクロスオーバーモデル「V70 XC」も追加される。
セダンをS、エステートをVと呼ぶ現在に至るボルボ車の名称はこの頃に定まった。またクロスオーバーモデルは当初XCだったが、その名をSUVモデルに譲り、代わりにXCを開いて「クロスカントリー」と読むようになっている。
派生車種が多かったのも「850」シリーズの特徴。本文の「V70 XC」のほかに、写真のクーペ(「C70」)やカブリオレ(「C70 カブリオレ」)も登場した。
このように四角いボルボの最終形は、マイナーチェンジ後の「S70」や「V70」を含めて1991年から2000年までの約9年の間に、精力的に今のボルボへと通じる新しい扉を開けた。
「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……
“今”を手軽に楽しむのが中古。“昔”を慈しむのが旧車だとしたら、これらの車はちょうどその間。好景気に沸き、グローバル化もまだ先の1980〜’90年代、自動車メーカーは今よりもそれぞれの信念に邁進していた。その頃に作られた車は、今でも立派に使えて、しかも慈しみを覚える名車が数多くあるのだ。上に戻る
籠島康弘=文


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