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2023.02.20

ライフ

「高齢の創業者が社内で老害化している」状況を“チャンス”に変える思考法


「モヤモヤ り〜だぁ〜ず」とは……

本日の相談者:飲食業役員・46歳
「創業者は小さな飲食店からスタートし、現在は宿泊業や不動産業など多角的な経営で会社を成長させてきました。

社長を息子に譲って会長になってからも、その影響力は大きく、会長の発言を否定できる役員もいない状況です。

75歳を超えて間違った指摘も増えてきており、”老害化”に対応するのに辟易してしまうことも……、会長に育ててもらった恩義はあるのですが、どう対応すればよいでしょうか」。
アドバイスしてくれるのは……


 
そわっち(曽和利光さん)
1971年生まれ。人材研究所代表取締役社長。リクルート、ライフネット生命保険、オープンハウスにて人事・採用部門の責任者を務めてきた、その道のプロフェッショナル。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(共著・星海社新書)ほか。

愛を持って対応してあげてください

私も既に50歳超で、「老害」は他人事ではありません。老眼も進み電車の電光掲示板などが見えなくなってきましたし、人の名前が思い出せなくなってきました(涙)。

人は誰しも老化します。若いときと同じ能力が発揮できなくなることもあるでしょう。若い人から見れば自分も「この老害が!とか思われているのか」と思いながら、この回答を書いています。

会長は一代で今の会社を築き上げた才覚の持ち主なのですから、きっと自分の能力が減退してきていることも気づいているのではないでしょうか。

恩義のある人ということですから、どうぞ愛を持って対応していただきたいとは思います。自分もいつか行く道です。

しかし、それはそれとして、大層お困りなのはよくわかります。大きな権力を持っている人の能力が衰えていけば、周囲への影響は計り知れません。

ですから、なんらかの策を練る必要があります。私も対策を練られるほうかもしれませんが、一緒に考えてみたいと思います。

「言葉の背景」を知っているか

どんな人を動かすにしても、まずは相手を知ることが先決です。質問者は「間違った指摘」とありますが、それはどこまで本当でしょうか。

日本は世界一ハイコンテクストな(共通の文化基盤が厚い)国らしく、多くの人が「皆まで言わない」文化です。足りない言葉を想像で埋めて、お互いに相手が言わんとすることを理解しようとしています。

会長は自分の会社にどっぷり浸かった人生を歩んでいるわけですから、ハイコンテクストな「あうんの呼吸」の文化に他の人以上に親しんでいるはずです。

そのため、会長の話の本意を理解しようと思えば、「言っていないこと」「言葉の背景」を知らなくてはいけません。


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「何か伝えたい背景があるに違いない」と考える

 
言い換えると、「何かおかしなことを言っている」と思うのではなく、「会長が言うのだから、何か伝えたいことがあるに違いない」と思ってみるということです。

確かに、発した言葉をそのままの意味で受け取ったら、「意味不明」「間違っている」ということもあるでしょう。それは老化のせいかもしれません。

しかし、表現は間違っていても、本当に伝えたいことはそうではなくて全く正しいこともありえます。

長年連れ添った夫婦の間で「あの、その、コップ取ってきて」と言われて、「これでしょ」といつものお茶碗(コップではない)を出す、というようなもので、表面的な言葉をそのまま捉えて反応するのではなく、背景の本意を探って相手が本当に言いたいことを把握できるようになれないものでしょうか。

一番の「理解者」になる

もし、上述のようなことが起こっているとすれば、会長は「どいつもこいつも俺の言うことを全然理解してくれないやつだ!」と日々怒り心頭でしょう。

そこで、もし質問者が会長の言葉足らずな(勝手に決めつけていますが……)発言を、背景を推測してきちんと理解できる人になれたらどうなるでしょうか。

きっと「おお、俺のことをやっと理解できるやつがでてきた」となるのではないでしょうか。

「それはこういうことですよね」「そうそう」と理解してくれる側近は権力者にとってはとても便利です。そこまでになれば、あなたを自分の「翻訳者」として重宝してくれることでしょう。

「翻訳者」は「権力者の代理人」

そうすればあなたは権力者である会長の代理人のようなもので、あなた自身に権力が今度は集まってきます。会長はあなたを通じてメッセージを出すでしょうし、社員はあなたを通じて会長に物事を伝えてもらおうとするわけです。

豊臣秀吉(=会長)と千利休(=あなた)の関係のようなものでしょうか。秀吉には直接言いにくいことを、利休に伝えてなんとかわかってもらうということです。

そして、「情報は権力」ですから、会社のことが一番よくわかるようになったあなたは実際に権力を持ち(実権を握り)、ひいては会長に物申せるようになっていくということです(利休はそれが過ぎて、秀吉に恐れられて切腹させられたのかもですが)。

歴史をたどることで相手を知る



さて、それでは、会長の言葉の背景を理解し、翻訳できるようになるためにはどうすればよいでしょう。「知ろうとする姿勢」を持つだけでは足りません。

相手の思考パターンを知るためには、その人がやってきたこと、判断してきたことの跡、つまり「歴史」を知ればよいのではないでしょうか。質問者は会社の歴史をどこまで知っているでしょうか。

会長はなぜ起業したのか、モチベーションの源は何か、社名の由来は何か、一番の危機はなんだったのか、そしてそれをどう乗り越えたのか。

そしてもちろん会長自身の歴史、ライフヒストリーもできれば知ると良いでしょう。小さい頃はどんな環境で育ったのか、会長の人格を作ったきっかけはなんなのか、等々。

人は経験から思考の型ができるわけですから、それらを知れば自ずと相手の思考がわかるのではないでしょうか。
グラフィックファシリテーター®やまざきゆにこ=イラスト・監修
曽和利光さんとリクルート時代の同期。組織のモヤモヤを描き続けて、ありたい未来を絵筆で支援した数は400超。www.graphic-facilitation.jp


曽和利光=文

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