
俳優であり、ダンサーであり、そして“問いを投げかける人”。
森山未來がアーティスティック・ディレクターを務めた「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」は、ただのアートイベントではない。
アートを軸に音楽・ファッション・ライフスタイルなど多様なカルチャーが一堂に会し、感性の琴線に触れるもの・アーティストとの出逢いを通じて自分の再発見につなげる。
アート、ファッション、キャリア、そして“ウェルビーイング”について。彼が描く、その思考の輪郭とは。
【写真20点】「俳優・森山未來が語るアートとファッション観」の詳細を写真でチェック森山未來が語る、“日本”を問い直すアートの力
2025年も開催された、国内最大級のアートフェスティバル「MEET YOUR ART FESTIVAL」。その中核となるアートエキシビション「Ahead of the Rediscovery Stream」でアーティスティック・ディレクターを務めたのが、森山未來だ。
森山未來(もりやま・みらい)●1984年、兵庫県生まれ。5歳から多様なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。俳優として数々の映画賞を受賞する一方、ダンサーとしても国内外で活動を広げる。2013年には文化庁文化交流使としてイスラエルに滞在し、Inbal Pinto & Avshalom Pollak Dance Companyを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。東京2020オリンピック開会式にてオープニングソロパフォーマンスを担当。2022年には地元・神戸にアーティスト・イン・レジデンス「AiRK(Artisti in Residence KOBE)」を設立し、運営にも携わる。“ポスト舞踏派”と称し、「関係値から立ち上がる身体的表現」を探求しながら、演劇・映像・アートを横断する活動を展開している。
フェスとの関わりは、YouTube番組『MEET YOUR ART』のMCから始まった。この番組では約5年間で200名以上のアーティストと対話を重ねてきた。
「番組を通じて、アーティストや彼らの作品に触れながら自分自身の表現に対しても解釈を深めることができる。とても貴重な経験です」。
森山が現代アートに惹かれるのは、それが同時代の美しさや醜さ、疑問などに対して鋭くアプローチできる表現だからだ。

「アートって情報を伝えるだけじゃなくて、“問い”を投げかけるもの。問題提起、発見を通して、鑑賞者の思考や感覚を静かに揺さぶる力があると思います」。
今回の展覧会では、「日本を再考する」ことがひとつのテーマとなっていた。
「コロナ禍で外に出られなくなったことで、僕らは“今ここ”に目を向けざるを得なかった。そこからローカルの価値を見直す視点が改めて生まれたように思うんです」。
“日本らしさ”を問い直す旅のなかで
グローバル化が進む一方で、日本という場所に生まれ育った彼は、その文化的背景を再構築する必要性を感じていたという。

「日本は外からの文化を編集して独自のものにしてきた場所。でも、それをもう一度再解釈して、“日本らしさ”とは何かを問い直すことが求められている気がします」。


展覧会のタイトル“Ahead of the Rediscovery Stream”の頭文字をつなぐと「ARS」。これは、「ART」の語源であり、哲学者・松岡正剛が晩年に立ち上げたプロジェクト「近江ARS」における「Another Real Style:別様の可能性」という思想と重なっている。
「編集工学を提唱された松岡さんの思考からは、ずっと大きな影響を受けてきました。自身の身体的・精神的感覚にも深く影響を与えてくれたと思います」。
そう語る森山が、アーティスティック・ディレクターとして取り組んだのは、コンセプトを構築し、問いを立て、展覧会の流れを形づくること。キュレーター2名とともに、“再発見”という感覚をいかに体験として立ち上げるかを探った。

「“日本とは何か”という問いや“日本という場所を再認識する”という視点は、自分の表現活動の根幹にあります。今回の展覧会では、その問いが空間全体に自然と響き合っていたように感じます。“五感を開くこと”も大切にしていました」。
「“井の中の蛙”からはじまる創造」

「このエキシビションのタイトルを考えていた時に、“井の中の蛙 大海を知らず されど空の青さを知る”という言葉がぱっと浮かんだんです。中国の諺が変容した日本の造語ではありますが、関係を編み直し、何かを再発見する、その象徴のように思えた。そんな時間を、来場者と共有したかったんです」。
また、俳優・ダンサーとしての身体表現の経験も、アートとの関わりに大きな影響を与えているという。
2/3