三千院や寂光院といった名所で知られる大原は人口約2000人の盆地集落。吉川は「何もない自然でなく、人の暮らしがあることで、この景色が保たれている」という。
当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら。2025年5月23日発売のForbes JAPAN7月号は、「ビリオネアランキング2025 マスク、トランプの恩恵を受けたのは誰か?」と「未来は買える」を特集。
毎年ビリオネア特集で掲載する成功者の多くは、資産をもっていない時から、未来を買うために動いている。何を買うかにその人の理想が詰まっていて、それを実現するために、仲間や情報、お金を集めていく。では、人や企業はどんな理想を描いて、何を買うのか。その「買いもの例」から成功の道を探る。
旗艦店とは、商品を売る場ではなく、ブランド価値を高める場所だ。自らの技術を発信する場として「kudan house」をつくった東邦レオが、その経験を生かして京都・大原エリアを舞台に生み出す新たな価値とは?
優れた技術をブランドに
「その景色を見た瞬間、『買います』と即決したら持ち主は驚いてました」。そう笑いながら語るのは、吉川 稔。1965年創業の都市緑化のニッチトップ、東邦レオの代表取締役社長だ。
京都の洛北、大原に広がる1万㎡の山荘。京都新聞社の迎賓館として歴史を刻んできたその場所で、吉川の心をとらえたのは、ひっそり佇む山居の縁側から望む里山の原風景だった。昔ながらの棚田、そこに息づく人々の営み、水の流れ、遥連なる山々と空。市街化調整区域に指定された同エリアでは、開発や過疎で失われつつあるこの景色が保たれることが約束されている場所でもある。
約1万㎡の敷地に日本庭園、山居、迎賓館からなる大原山荘の全体像。改装と並行して音楽イベントなども開催している。
そもそもなぜこの土地を購入したのか。話は約10年前にさかのぼる。2016年、先代から東邦レオの舵取りを引き継いだ吉川がまず着手したのは、同社の歴史、技術、美意識を発信する“旗艦店”をつくることだった。
信託銀行、ラグジュアリー業界というバックグラウドをもつ吉川は、「高級ブランドが現在のように拡大した要因として、1980年代以降に直営店を構えたことが大きい。世界屈指の高級ブランドとなったエルメスも、元は馬具工房です」と分析する。高度な専門技術で業界トップでも、一般にはまだ知られていない企業は多い。日本の職人的な技術を“ブランド”としていくには旗艦店が鍵になると考え、都市を緑で彩る同社のコンセプトを体現する場所を探し求めた。
そうして出会ったのが、1927年竣工の九段下の洋館「旧山口萬吉邸」。老朽化した館をもとの姿に蘇らせ、うっそうとしていた庭に日本庭園を創出。生まれ変わったkudan houseは高額な使用料にもかかわらず、知的な富裕層や外資系企業に利用されている。
「洋館の価値もさることながら、日本庭園が人々を感動させることに気づいた。庭師曰く『未来永劫完成しない』が、数年で良いかたちになってきたところで、日本庭園を軸に新たな旗艦店をつくろうと探して、大原の話を得た」と吉川は言う。
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