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2025.05.17

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ヤマハが本気で目指す、船の脱炭素「自動車のEV化よりハードルが高く、はるかに難しい」



「The BLUEKEEPERS project」とは……
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「今日よりもっと素晴らしい海を、未来へ贈る」という目標を長期ビジョンのひとつに掲げるヤマハ発動機のマリン事業。

世界に先駆けた水素エンジン船外機の開発や、EV化の推進などをもって、海のカーボンニュートラル実現に全方位で取り組んでいる。

最も重視するのは、海に出た人が無事に帰ること

2050年までのカーボンニュートラル達成を目指し、ヤマハは水素、電気、バイオ燃料などマルチなアプローチを取る。マリン電動領域のパイオニア、ドイツのトルキード社買収も開発力強化を目的とした。

2050年までのカーボンニュートラル達成を目指し、ヤマハは水素、電気、バイオ燃料などマルチなアプローチを取る。マリン電動領域のパイオニア、ドイツのトルキード社買収も開発力強化を目的とした。


海のカーボンニュートラルの実現は、陸でのそれよりはるかに難しい。
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環境負荷の低さを追求する開発は進みながら、今もほとんどの船がディーゼルエンジンやガソリンエンジンなどの内燃機関を搭載し、CO2を排出しながら航行している。

国連の専門機関であり、日本を含む176カ国が加盟(2024年8月時点)する国際海事機関(IMO)は、20年に温室効果ガス(GHG)排出量等に関する調査報告書を公表。

18年に国際航海を行った船舶が排出したCO2は約9.19億トンであるとし、排出量の多さが世界で6番目とされるドイツ1国分に相当するとした(出典:総務省統計局「世界の統計2024」。ちなみに日本はドイツより上位の5番目)。

陸地を走る自動車はEV化が進み、走行時に温室効果ガスを排出しないゼロエミッション車である、水素を動力とする水素自動車も販売。自動車会社のカーボンニュートラルへの取り組みは世界的に推進されている。もちろん同産業で開発された技術は船舶をはじめとするマリン分野に転用されてきた。

だが、海のカーボンニュートラルは相当にハードルが高い。ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)の小野寺廉さんはそう口にし、詳細な説明を続けた。

ヤマハ発動機 広報グループ 小野寺 廉さん●神奈川県出身。コーポレートコミュニケーション部の広報グループに所属しマリン商材を担当。一方オウンドメディア「HATSUDO」のプロデュースにも関わる。休日は子供と遊ぶために海へ。学生時代はラガーマンとしてプレー。

ヤマハ発動機 広報グループ 小野寺 廉さん●神奈川県出身。コーポレートコミュニケーション部の広報グループに所属しマリン商材を担当。一方オウンドメディア「HATSUDO」のプロデュースにも関わる。休日は子供と遊ぶために海へ。学生時代はラガーマンとしてプレー。


「マリン業界の商材は、海に出て、何事もなく無事に帰ってこられることが最優先されます。その点が陸上用商材との絶対的な違いで、我々作り手が何より重視するのは、使用者が安全に帰ってくるまでを保証すること。1度海に出たら周りには助けも逃げ場もありませんからね。

自動車であればエンジントラブルが発生しても路肩に停めるといった策が取れます。しかし船の場合、エンジンが止まった時点で漂流することになる。

海上は生命を脅かすリスクがとても高く、そのため従来とは異なる電力や水素といった動力へ移行するハードルも高くなるのです」。

カーボンニュートラル実現にはインフラ整備もクリアすべき要因だという。確かに自動車のEV化においてさえ、充電施設の充実は課題であり脱炭素実現の鍵とされてきた。

東京都では4月からマンション・商業施設・オフィスビルなどの新築建物にEV充電設備の設置が義務化されたが、これもEV普及を踏まえてのこと。そして船舶の脱炭素化にも、自動車と同等か、それ以上に充電施設の整備が必要になる。

「いつでも発売できるように準備を進めている」水素エンジン船外機は、二輪車など小型モビリティで培った水素技術も活かして開発。構造は既存のガソリン式を応用したもので、燃焼させて得られるパワーも同等レベルだという。

「いつでも発売できるように準備を進めている」水素エンジン船外機は、二輪車など小型モビリティで培った水素技術も活かして開発。構造は既存のガソリン式を応用したもので、燃焼させて得られるパワーも同等レベルだという。


ヤマハは3月下旬、神奈川・横浜で開催されたボートメーカー各社による見本市「ジャパンインターナショナルボートショー2025」で、水素を燃料とする船外機を国内初展示した。

しかし実用化は未定。大きな理由をインフラの整備状況にあるとする。

「マイナス190℃にまで冷却された液体水素の注入設備を持つマリーナは現状存在しません。

整備に関しては、まず自動車用の設備が普及し、市民権を得てからマリン分野にも転用されていく。それが現実的なストーリーなのだと考えています」。

加えて、何かのミスで漏洩でもしたら惨事となりうる液体水素を安全に積み込み航行できる船も必要であり、その実用化も壁となる。このような背景から、「何年までに実用化できますとは言いがたい」のだ。
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