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2022.07.28

ファッション

ビームス屈指のラルフ・オタクはテニスがプロ級。新井伸吾さんの“好き”が仕事になる理由



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ビームスのメンズカジュアル部門でバイヤーを務める、新井伸吾さん。

俗に“新井企画”と呼ばれる、数々の名物企画を世に送り出してきた彼は、一体どんなA面(Active面)とB面(BEAMS面)を 持っているのだろうか?

Let's パパラッチ!

A面 新井伸吾といえばラルフ。まずはここからパパラッチ

新井伸吾(あらい・しんご)「ビームスT 原宿」の店長を経て、2017年にメンズカジュアル部門のバイヤーに就任。以後、ラルフ ローレンの語り継がれる別注企画などを次々と実現させる。インカレ出場も果たした筋金入りのテニスラバーでもある。

新井伸吾(あらい・しんご)「ビームスT 原宿」の店長を経て、2017年にメンズカジュアル部門のバイヤーに就任。以後、ラルフ ローレンの語り継がれる別注企画などを次々と実現させる。インカレ出場も果たした筋金入りのテニスラバーでもある。


新井さんをひと言で表現するならば、“好き”を仕事に繋げる天才だ。自身の趣味をとことん突き詰め、それをビームスの企画にしてしまう。

仕事の原動力である彼の好きなものは、“オタク”といえるほどハマり続ける「ポロ ラルフ ローレン」と、幼少期から勤しんできたテニスである。

もともとデニムやスニーカーなどアメカジが好きだったという新井さん。彼がラルフ ローレンに目覚めたきっかけは、中学2年生のときに経験したNYへのホームステイだという。

この日の新井さんは、ラルフ ローレンのヴィンテージの中でもレア度の高い通称・“テニスマン”と呼ばれる柄シャツを着用。

この日の新井さんは、ラルフ ローレンのヴィンテージの中でもレア度の高い通称・“テニスマン”と呼ばれる柄シャツを着用。


「現地で派手な柄シャツをお洒落に着こなした人たちを目にして、すごく格好良いなぁと思ったんですよ。のちに彼らが着ていたのがラルフ ローレンのアイテムだったと知り、もう恋と呼べるくらい好きになっちゃったんです(笑)」。

以来、新井さんはラルフ ローレンにどハマり。当時から店舗に足繁く通い、日本で買えないものは海外に住む親戚に送ってもらったり、旅行のお土産に頼んだりと熱心に収集していった。

それから30年近くを経た今でも、ラルフ ローレン愛は冷めることはない。

新井さんの“好き”の原点は、テニスにあり



新井さんのライフスタイルに欠かせないのがテニスである。

本格的に始めたのは小学2年生の頃。地元である東京・西新井のクラブチームに所属して腕を磨き、高校ではインターハイ、大学ではインカレにも出場するほどの実力を持つ。

今でも週に一度は、近所のテニスコートで早朝から汗を流すという。

テニスは生活の一部であり、彼の“好き”の原点でもある。

テニスウェアはオーバーサイズを着るのが新井さんの流儀。

テニスウェアはオーバーサイズを着るのが新井さんの流儀。


そもそも新井さんがテニスにのめり込んだきっかけは、ずばり“ファッション”だ。

「もちろんプレーも楽しいですが、僕は形から入るタイプで……テニスのギアのデザインや色使いに魅了されたんです。当時はプロの選手がどんなギアを使っているか、すごく気にしていましたね」。

ピート・サンプラス、アンドレ・アガシ、マイケル・チャン……もっとも影響を受けたヒーローの多くは、'90年代に活躍した名選手たちだ。

「当時の彼らが着ていたテニスウェアは、今と違ってポロシャツもショーツもオーバーサイズが主流。今見てもやっぱり格好良いんですよね」。



時代が変わっても新井さんは一貫して彼らのようなゆったりしたシルエットのウェアを身に纏いテニスをしている。

「僕がラルフ ローレンを好きになったのも、ホームステイ中に参加したテニスのサマーキャンプで柄シャツを着た人を見たことがきっかけ。僕の根源にはやっぱりテニスがあると思います」

新井さんのA面(Active面)には、恋焦がれるほどの情熱でのめり込める趣味がある。それは、彼の原点であり、自らのクリエイティブを呼び覚ますためにも重要なことだ。

そして新井さんが魅了され続けたラルフ ローレンやテニスファッションは、ビームスの仕事にも繋がっていく。

B面 本家も認める“オタク”っぷりで、ラルフ ローレン別注を実現



新井さんのB面(BEAMS面)の顔は、メンズカジュアルのバイヤー。

「ビームスT 原宿」の店長を経て2017年にバイヤーに就任し、これまでバイイングのみならず、数々の別注やコラボアイテムを企画してきた。

ポニーのロゴ刺繍を右胸に移動した(世界初!)ビームス別注のポロシャツは、新井さんのオリジナル企画。

ポニーのロゴ刺繍を右胸に移動した(世界初!)ビームス別注のポロシャツは、新井さんのオリジナル企画。


その代表が、もはや毎シーズン恒例となっているラルフ ローレンの別注企画だ。新井さん曰く、バイヤーになって一番熱心にアプローチしたのがこのブランドだったという。“好き”なことに対して一直線に向かう姿勢は、仕事においても変わらない。

「ラルフ ローレンは僕にとって特別な存在ですから、とにかく自分の企画で何か作りたいという思いをずっと持っていたんです」。

2頭のポニーを配置したソックスも新井さんが考案。

2頭のポニーを配置したソックスも新井さんが考案。


ビームスに入社してからも、ラルフ ローレンのコレクションを増やし続けていた新井さん。自宅には相当量のアーカイブがあり、期せずともそれらがラルフ ローレン別注の道を切り開いてくれた。

新井さんがラルフ ローレン本社に着て行ったという通称・“リビエラ”と呼ばれる柄シャツ。ネットオークションでもかなり高値で取引されているレアもの。

新井さんがラルフ ローレン本社に着て行ったという通称・“リビエラ”と呼ばれる柄シャツ。ネットオークションでもかなり高値で取引されているレアもの。


「ラルフ ローレン本社の展示会にお伺いしたときに、過去のアーカイブから“リビエラ”と呼ばれる派手なシャツとベストを着て行ったんです」。

それが、たまたま本社スタッフの目につき、声を掛けられたという。

「レアアイテムだったので『あなたが着ているのは、まさかオリジナル!?』と驚かれました。ラルフ ローレンのヴィンテージアイテムで全身コーディネイトした僕は、本国の人から見てもかなりクレイジーで目立っていたと思います(笑)」。

ショーツのポニーの位置も、通常にはない場所に移動。

ショーツのポニーの位置も、通常にはない場所に移動。


その場で写真を撮られると、この出来事が契機となり企画のやりとりがスタート。ついには念願のビームス別注を作るにまで至った。

「まずはクレイジーパターンの別注アイテムから始まり、それから3年を経て、念願だったポニーの刺繍を左から右に移動させたポロシャツを作りました」。

以後、ラルフ ローレンの代名詞とも言うべきポロプレイヤーロゴの場所に大胆なアレンジを加えたチノパン、ソックス、ショーツなど、次々に別注アイテムを展開。いつしかそれがビームス別注のアイコンとなった。

ビームスの別注モデルには、「BEAMS LIMITED EDITION」のタグが付く。

ビームスの別注モデルには、「BEAMS LIMITED EDITION」のタグが付く。


「僕はラルフ ローレンが本当に大好きなので、ビームスで別注を作るとしたら、ちょっとしたアレンジでいいと思っていたんですよね。でも、コーポレートロゴを移動させるというのは、ブランドにとってはかなり大きな決断。それを認めてくれたラルフ ローレンの懐の深さには感謝しています」。

これ見よがしではないけれど、インパクトを残す大胆アレンジ。これぞ、新井さん流のモノづくりの極意でもある。

今季は名門テニスメーカーとのコラボも!

また、今シーズンからは本格的なテニス用ギアも手掛けるようになった。それがアメリカの名門テニスメーカー「プリンス」とのコラボ企画である。

ウェアは、グリーン、ホワイト、ネイビーがラインナップ。Tシャツ各8250円、ショーツ各8250円、キャップ各5500円/すべてプリンス×ビームス(ビームス 六本木ヒルズ https://www.beams.co.jp/shop/rph/)

ウェアは、グリーン、ホワイト、ネイビーがラインナップ。Tシャツ各8250円、ショーツ各8250円、キャップ各5500円/すべてプリンス×ビームス(ビームス 六本木ヒルズ https://www.beams.co.jp/shop/rph/


「テニスの試合では脇役であるボールボーイをイメージしたウェアや、ブランドを代表するテニスラケットの別注モデルを作ったんです。アレンジを加えた“P”のロゴは、ボールを拾うとき見やすい場所に配置したり、ポケットにはボールがたくさん入るようになっていたりと細かい部分にめちゃくちゃこだわっています!」

ラケット4万4000円/プリンス×ビームス(ビームス 六本木ヒルズ https://www.beams.co.jp/shop/rph/)

ラケット4万4000円/プリンス×ビームス(ビームス 六本木ヒルズ https://www.beams.co.jp/shop/rph/


ラケットやウェアは、ビームスの店舗だけでなくウィンザーラケットショップといった専門的なスポーツショップでも展開されるほどの本格派。テニス好きに刺さるディテールが満載だが、あくまでファッションとして楽しめる仕上がりにもなっている。

「今後は、世界展開できる企画を作りたい」と、笑顔で計画を話す新井さん。

「今後は、世界展開できる企画を作りたい」と、笑顔で計画を話す新井さん。


「僕はバランスの悪い人間なので……偏りを武器にするしかないなと(笑)。ビームスバイヤーとして僕にしかできないことをやろうと思っています。

仕事は自分の趣味を堪能するようなもの。だからこそ企画を作るときは、一歩立ち止まってそれが本当に人を喜ばせるアイデアなのか、謙虚な気持ちを持つようにしています」。


趣味をとことん楽しむことで名物企画を実現してきた新井さん。良い仕事の根源には、果てることない情熱がある。彼のライフスタイルを追いかけて見ると、それがよくわかる。



山本 大=写真 長谷川茂雄=文

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