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谷口:エルランとゴップの会話シーンがすごく政治のにおいがする。キシリアも絡んでいる。すごく大人なドラマだなって。そういうところが僕は「お芝居、ああ、しているな」「ドラマがあるな」と。『THE ORIGIN』は大河ドラマっぽくて、「政治がきちっと描かれている」とよく言われています。裏ですごく悪い人たちがいて、それとは全然違う日常生活を送っている子どもたちがいて。そういう大きい流れの中で小さい生活もあるというところを観てほしいです。

「戦争って嫌だね」っていうだけでは済まない問題


――「人はみんな戦争がしたいんだ」というテーマが、人類の歴史の本質を突いていると感じました。1つだけ気になったのは、レビルは平和を志向するキャラクターかと思っていたのですが、彼の演説が戦争継続への引き金になってしまう。西村さんはレビルを戦争をしてしまう人間として描いたのですか?

地球連邦軍のレビル将軍。『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN 誕生 赤い彗星』 5月5日(土)より4週間限定・全国35館にて劇場上映中(C)創通・サンライズ


西村:本当のところはわからないんですよ。レビルも考えていることはあるんでしょうけど、そんなに単純ではないだろうし、そのとき感じていることと行動が一致してないように見えるキャラなので。

ことぶき:わざと流れに乗っているような。だから、ちょっとタヌキっぽい気もしますしね。

安彦:ガンダム全史には約束ごとがあるんですよ。それをクリアしていないと過去編を描いたことにならない。たとえばレビルだと捕虜になって脱走して演説をすると。そういう決まりなんですよね。でもレビルが陰謀的に脱出するのか、それとも英雄的に脱出するのか、という説明はない。その解釈は「これが英雄的行為であるわけがない。政治的な陰謀なんだ」と漫画でつけました。で、その場合に非常に重い課題が、戦争か平和か? という問題ですよね。戦争がない状態が平和なのか。奴隷の平和は平和なのか、ということです。「戦争って嫌だね」っていうだけでは済まない問題がここにあります。日本国憲法の問題なんかそうですよね。『東洋経済』だから、それらしく。(一同笑)

戦争に行ってひどい目に遭った人たちが90代で今も生きているわけでね。「戦争はひどいよ」と「あんなことはやっちゃいけない」と言う人もいれば、「俺たちは頑張った」と言う人もいる。基本的に語り部さんがまだいると。で、この人たちがまもなく完全にこの世から去って、あとはわれわれの想像力の問題になっていく。そのときに戦争と平和というのを本当に根底から考えなきゃいけない。シリアの問題でもそうですしね。北朝鮮は朝鮮戦争以来、戦争がないわけですよ。それをかき回すと、また内戦とか南北戦争になる。じゃあ、そのままでいいのか? みたいなね、いろんな課題があるわけですよ。

レビルの演説というのは、いったん、限りなく休戦に近づいたものをひっくり返すわけで、平和に反する演説なんですよね。でも、それを政治家たちが望んでいるという。ある種のリアリズムだと思いますね。この構造はファーストガンダムにはもともとあったんです。だから、ガンダムっていうのはすごいなという気がするんです。

左からことぶき氏、鈴木氏、安彦氏、西村氏、谷口氏(撮影:尾形文繁)


大坂 直樹 :
東洋経済 記者
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記事提供:東洋経済ONLINE

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