■パッと見ノーマル、実はスゴイ! が“大人の改造”
気になっていた初期型1100カタナはすぐに見つかり、2010年12月に手元にやってきた。
エンジン、外装、フレーム、ホイール、マフラーのほか、この10年ほどで手の入っていないところはないほどカスタムは進んでいる。
「コンセプトは“大人の改造”です。パッと見はノーマルなんだけど、実はスゴイ! っていうね」。
このコンセプトにはショップ店長も同意で、中村さんが「フロントウインカーを少し小さなものにしたい!」と言っても、「ノーマルの外観を崩さないほうがいい」と却下されたこともあるとか。
それでも、中村さんは納得している。長年の店長との信頼関係があればこそ、成せるワザなのだ。
「このカタナでバイク仲間と高速を使ったツーリングにも行きますし、建築現場にも行きますよ」。
例えばツーリングは、友人たちの住む大阪と東京のほぼ真ん中にある浜松などで落ち合って軽く走り、帰りに健康ランドに寄って寒さで縮こまった体を温めて帰ったり……といった、決めすぎない緩いスタイルが多い。
もちろん、中村さんをバイクの道に誘い込んだ、あのテニス部の仲間たちとも、年に1〜2度のツーリングを今も楽しんでいる。
建築現場にもこのカタナで行くという中村さんだが、バイク好きな施主からすれば、こんなカタナで設計者が現場に来たり、ましてや打ち合わせの行われるオフィスに置いてあったらワクワクしそうだ。
それを見越してか、オフィスを覗いたときに、カタナはいちばん目立つところにピカピカの状態で置かれている。
その隣にはこれまた車好きの目を引きそうな真っ赤なフォルクスワーゲン・バハバグ。
バハバグの前は1981年式のこれまた趣味性の高い車、空冷ポルシェ911に乗っていたという。
「おかげさまで仕事が忙しく、休みがほとんどない状態が何年も続きました。そんなときでも好きな車やバイクなら仕事の移動時間が“趣味の時間”に早変わりして、気分もリフレッシュされました。
空冷ポルシェはすべての面で最高でしたが、まだほかに乗りたい車もあるし、維持費もかかる。13年半乗って十分楽しんだので、ゆっくり走って楽しい車もいいかな」と、フラット6エンジンのポルシェからフラット4エンジンのバハバグに買い替えた。
「でもね……カタナはまだまだ手放したくないんですよ。速く走れる乗り物はまだ持っていたい年齢だし、まだこだわれるところはあるしね」と、ニヤリと笑う中村さん。
まだまだカスタムするところがたくさんあるとでも言いたげな、含みのある笑顔だ。
建築家は、自身の設計した建物の小さな金物さえ一品一品吟味して選んでいく。それと同じように、この幸せなカタナもしばらくは、建築家・中村さんのこだわりを一身に受け続けていくのだろう。
山中基嘉=写真 今坂純也=取材・文