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数学の本質は、計算ではない

相曽と、数値解析技術研究ユニットの研究者たち。
相曽 もともと数学というと、イコール計算に結びつける人が大半だと思いますが、実は計算はあまり関係ないとも言えるんです。
―それは計算が苦手で数学の世界から脱落した私の立場からすると、視界が晴れてくるお話です。
相曽 例えば原始人にとっては“みかんが3個”と“りんごが3個”は違っていたはずです。実際にみかんやりんごがこの時代に存在していたかは別として。
―どういう意味でしょうか?
相曽 みかんが3個、りんごが3個。加えて羊が3頭、人間が3人いたとします。それぞれ物質としては違うわけですが、どれも「3つ」、存在しているという点では共通していますよね。というように物事を抽象化する、できるのが、数学の本質なんです。
―「3」は具象ではなく? 抽象に値するんですね。
相曽 例えば物差しで1cmと呼ばれる単位があって、それが3つあるから3cm。1gの重さが3倍で3gは具象ですが、「みかんもりんごも羊も人間も、それぞれ3だった」は、物事の抽象化です。
―確かに。すごく腑に落ちました。
青山 全然違うように見えるものも、ある一つの観点から見ると同じではないか。共通項を見つけるということが、数学的素養の最大の特徴ですね。抽象化する。そういう頭の使い方こそが数学においては一番大事な概念だと思います。
数値解析技術研究ユニットの紹介をする青山(写真左)。
相曽 例えば、手前に羊が3匹、遠くに羊が2匹いて、合わせたら羊は5匹。これは数学で表すと「3+2=5」になりますよね。
―はい。その計算はできます(笑)。
相曽 この、「3+2=5」になるという性質があるんだとわかった時点で、本質的には物事を抽象化しているんですよ。
―なるほど。「計算した」という事実にばかりピントを合わせてきましたが、そうやって考えていくと私たちは日々、知らず知らずのうちに数学を使って、物事を抽象化していたわけですね。
青山 そういうことです。そして抽象と具象のあいだを行き来すること。それが普段、我々が使っている思考かもしれません。
世界的にも著名な乱流研究の専門家であるSagaut教授(エクス・マルセイユ大学)(左から3番目)が来日されたときに、数値解析技術研究ユニットのメンバーで歓迎会をした際の写真。
相曽 計算という側面も大いに役立ちます。ですが、考え方の枠組みを抽象化、一般化することで全く別軸にあったふたつの問題を、例えば同じ数式で解いてしまえる。そういう可能性を提供しようとするところもまた、数学の役割だということを少し頭の片隅に置いていただけたらと。
―言い換えるとそれは、最小限の仕組みや手順で幅広く複雑な現象を取り扱うことができるということですよね。うまく言えませんが、数学とはエレガントな学問だと思いました。苦手意識が薄れるような時間を(笑)、ありがとうございました。
Profile
航空技術部門
数値解析技術研究ユニット長
青山剛史
AOYAMA Takashi
東京都出身。数値シミュレーションの研究をする部署の取りまとめ役をやっています。昔はかなり真面目にテニスをやっていましたが、今は早起きしてペットの柴犬の散歩することが楽しみになっています。
航空技術部門
数値解析技術研究ユニット
相曽秀昭
AISO Hideaki
主な業務内容は、計算流体力学(CFD=Computational Fluid Dynamics)の計算法周辺。近年は増加するCFDツール(プログラム)のユーザー向けに、使いこなしに必要な数学的基礎をどのように伝えるかについても思案中。幼少期から鉄道好きで今でも東京―関西間であれば青春18きっぷで楽勝です。鹿児島から東京まで新幹線乗り通しも好き。
水島七恵=取材・文
著作権表記のない画像は全て©JAXAです。
記事提供:JAXA


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