2019.05.17
FASHION

今は選ぶべきは? メガネの“見る目”をアップデートする、平成アイウェアヒストリー

見るモノ変わるメガネの世界
迫りくる老眼、ブルーライトとの戦い。年齢や時代とともに気になることが増えてきた目とメガネにまつわるアレやコレ。正しい知識と選択で、自分の視界も他人の視線もガラッと変わる。見るモノ変わるメガネの世界、ご覧あれ。

さまざまな経験をして、仕事も家庭も人生の繁忙期である時期に突入した我々の感覚は時折、昔とった杵柄に頼りがちだ。

あなたが今、掛けているそのメガネはどうだろうか?

視力矯正の道具であるがゆえ、ほかの小物よりもアップデートが億劫になりがち。今回は、ファッションピースとしても重要なメガネを時代に合わせてしっかり更新するため、メガネの平成史を振り返ってみたい。


第一章:1989年~2000年
「仕方なく」から「好きなものを」へ

ファッションの一部として、メガネとサングラスとを同一線上で楽しむ。今では当たり前とも言えるこの環境が根付いたのは、意外にも最近の話。

平成が始まってすぐは、どこのメガネショップへ行っても名の知れたファッションブランドのライセンス系のサングラスが多く並んでおり、メガネに至ってはまだまだ視力矯正のために“仕方なく掛ける”モノ、という認識が一般的だった。

画一的なメガネ事情に収まらない洒落者の先輩たち曰く、気の利いたメガネを誂えるための選択肢は原宿のセレクトショップ「ロイド」か、上野の老舗「白山眼鏡」ぐらいだったという。

開業当時のロイド。オープンは1985年で、当時の洒落者たちがこぞって通った。

その潮目が変わり始めたのが1995年から2000年にかけてのこと。

日本では、独自の設計概念で個々の顔に合わせて微細なフィッティングができる「フォーナインズ」や、ドイツではネジを一切使わない画期的な構造を打ち出した「アイシー・ベルリン」などを筆頭に、小規模かつイノベーティブなブランドがデビューしたことが大きな理由だ。

彼らの登場によって、間違いなくメガネ選びに“掛け心地”という選択肢が加わった。

ネジを使わない独自のヒンジ構造で、それまでにない掛け心地とネジの緩みなどによる掛け心地の変化を排除した「アイシー・ベルリン」。

一方で、今まで裏方だった職人にスポットを当て、伝統的な技法や昔ながらのセルロイドによるフレームを推す「金子眼鏡」の職人シリーズが丸の内のビジネスマンに支持を受けるなど、古くからのモノづくりを見直す流れと最新のテクノロジーをデザインに昇華する流れが互いに拮抗しながら発展し、好みに合わせて自分らしい一本を選ぶというアイウェアトレンドの土台を固めていった。

また時を同じくして、その受け皿とも言うべきアイウェアショップにも変化が表れ始めた。当時、一般市場に流通していない国内外のハウスブランドや、国内に代理店を持たない海外ブランドをオーナーの目利きで直接買い付けて販売するインディペンデントなアイウェアの“セレクトショップ”が新たに姿を現す。

オープン間もない頃のグローブスペックス 渋谷店の店内。独自の目線で選ばれたセンスのいいメガネがならんでいた。

その代表格が、1995年にオープンした渋谷の「グローブ スペックス」や青山の「オプティカルテーラー クレイドル」で、場所柄、ほかにはないデザインを渇望してきたクリエイターやファッション業界やメディア関係者の間で話題となり、口コミで徐々に広まっていった。’95年~’00年は「マスデザインから個のデザインへ」、アイウェアが飛翔した時代と言えるだろう。

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第二章:2001年~2010年
メガネとユーザーの距離が一気に縮まる

個性を重んじる機運が高まる中で21世紀を迎えて早々、メガネ選びに早くも激震が走る。「ジンズ」「ゾフ」を筆頭とする新規参入の大型メガネ店が相次いで登場し、「ファッションとしてのメガネ」が急激に身近な存在になったのだ。

度入りレンズの加工も含めた仕上がりの速さとSPA(製造小売り)によるアンダー1万円という価格帯、豊富なデザインは、ユーザーが感じていたメガネの“仕方なさ”を払拭して一気に距離を縮めたうえに、いろんなデザインや色のフレームを“着替える”楽しさを浸透させた。

この革命的な出来事は、実はアイウェアに潜在的に興味を持つユーザーに門戸を開き、よりハイクオリティで個性的なフレームを求める流れを作っていく。

ブームにもなったメガネ男子という言葉。メガネを掛けた著名人を登場させた写真集『メガネ男子』(アスペクト)も人気を博した。

それを裏付けるように2005年には『メガネ男子』(アスペクト)なる写真集が出版され、視力の矯正器具としてメガネを必要としない層からの関心も高まってきたことが窺える。そんな波乱に満ちた2001~2010年はトレンドも大きく様変わりした。

2005年までは天地幅の狭い長方形のフロントに太いテンプル、チタン素材を駆使したパーツを搭載した、いわばハイテクスニーカーのようなデザインが主流だったが、2006年に英国の老舗「オリバーゴールドスミス」が復刻シリーズを発表すると、時代は徐々にクラシックへと舵を切っていった。

国内でも時を同じくしてロックをテーマとした「エフェクター」がデビュー。レンズの天地幅が広めのボリューム感ある黒セルフレームが醸すナードな雰囲気が、ストリートファッションや音楽シーンにハマり、次第に支持層を厚くしていった。

エフェクターの代表作「fuzz(ファズ)」。

このムーヴメントはビッグシェイプ&ビッグロゴが定石だったハイブランドのサングラスにも影響を与え、クラシックなデザインが多く取り入れられるキッカケにもなった。デザインで特に人気が集中したのがウェリントンタイプだったが、この時点で既にコアなメガネ好きはほかとは違うデザインを求め、ボストンタイプやサーモントブロウタイプなど、さらにギークなデザインへと移行することとなる。

リムの上部はプラスチック、下部はメタルで縁取られたサーモントブロウタイプ。

この現象をとあるアイウェアデザイナーは「9・11やリーマンショックによって、一般ユーザーの将来に対する展望が変わった。メガネも、先へ先へと進むよりも、確かなモノや堅実なモノ、地に足の着いたデザインに安心感を求めた結果かもしれない」と言う。

そんな状況から再び元気を取り戻し、活気あるデザインが徐々に増え始めたのが2010年以降のことである。

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第三章:2011年~
ファッションとメガネがイコールで結ばれる

2011年以降は最もトピックが多く、現在もその激しい変化は続いている。アメカジやトラッドとの親和性が高いクラシックの選択肢はますます広がり、NYの老舗「モスコット」やジョニー・デップ愛用のヴィンテージを復刻した「ジュリアス タート」をはじめとするアメリカンヴィンテージに加え、フレンチヴィンテージも参戦してきた。

モスコットのニューヨーク本店。日本でも、東京・青山の骨董通り沿いに路面店をオープンしている。

複雑な構造の折り畳み式やクリップオンフリップアップなど、さまざまなギミックを搭載したものも多く輩出されるようになった。

ハイファッションとの結びつきはこれまでになく密接で「マスナガ」と高田賢三、「マイキータ」とメゾン マルジェラ、「ディータ」とトム ブラウン、「金子眼鏡」とイッセイミヤケ、ニコルの創設者、松田光弘が立ち上げたアイウェアブランド「マツダ」の復活などなど、大御所がこぞって本格的なグローバルコレクションを立ち上げている。

現在も展開中のマイキータとメゾン マルジェラによるコラボライン。アイウェアブランドの技術とファッションブランドのセンスが融合した、ファッションピースとしても優秀なコレクション。

同時にジャパンブランドの世界進出も目覚ましく、前述の「マスナガ」と「ファクトリー900」がフランスの国際アイウェア展示会のアワードで揃い踏みするなど、クオリティだけでなく、日本のデザインの優秀さが世界でも認知され始めている。

このようにクラシックは一過性のトレンドからひと皮剥けて、定番として浸透していったが、その一方で技術革新やレンズにも目が向けられたのもこの時代の特徴だ。

なかでも3Dプリンターを駆使したフレームは白眉で、既存のセルフレームでは表現できないフォルムを実現した「マイキータ マイロン」、軽くて上部なチタンならではの意匠を具現化したフレームの「フート」は、3Dプリンター技術にできることを、身をもって証明してくれた。

レンズを介したさまざまなアプローチがなされたのも特筆すべきことで、「フォーナインズ」はメガネで蓄積した掛け心地へのノウハウをサングラスに取り入れた「フォーナインズ・フィールサン」を、「ジンズ」はブルーライトカットに特化したレンズを搭載したPCメガネを提案するなど、より多くの人がさまざまなアイウェアを楽しめるキッカケ作りに貢献している。

[上]平らで薄く、シャープな印象のメガネを作ることができるフラットレンズ。[下]室内でも外す必要がなく、相手から目が見えるので柔らかな印象になる薄色カラーレンズ。

さらに’80年代を席捲したミラーレンズの再来や、室内でも違和感なく掛けられる薄色のカラーレンズ、光を反射するフラットレンズ、軍用から発展したマットレンズなどをスタイルとして取り入れたサングラスは、デザインだけでなくレンズも選ぶ、という新たな選択の道を我々に与えてくれた。


ーー2019年。メガネは我々に寄り添う時代に

平成のアイウェア史をざっと辿ってみたが、実は今こそ、最もオーシャンズ世代がメガネを選びやすい時代だと言える。

というのも、我々世代の多くはファッションのコアにアメカジがあって、そこからトラッドやストリートスタイル、あるいは上質な素材で再構築した大人のカジュアルを謳歌している。

今まさにアイウェア業界では同じことが起こっており、クラシックをベースに新たな枝葉が伸びている状態なのだ。

無理して奇を衒ったデザインを選ぶか、スタンダードなものを選ぶかしかなかった昔とは違い、今は我々にメガネが寄り添う時代。

さあ、自分の“おメガネに適う”デザインや背景を持つブランドを見つけに、アイウェアショップへ繰り出そう。そして、見える世界を変えようじゃないか。


實川治徳=文

# ヒストリー# メガネ# 平成
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