「バー経験が少ない人でも安心」明治神宮前の社交場“バー・ヴェルク”を渡辺真史が探訪

渡辺真史●1971年、東京都生まれ。ベドウィン ＆ ザ ハートブレイカーズのディレクター。ローカルとインターナショナル、2つの視点で東京をクルージング。

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明治神宮前駅から徒歩10分ほど。ビルの階段を下りた先にひっそりと佇む「バー・ヴェルク」。店主である成田玄太さんを訪ねた。

渡辺　昼間は賑やかな場所で、夜はうっかりすると通り過ぎてしまいそう。店内は落ち着いた和のイメージで、隠れ家的なムードがあります。

成田　以前は寿司店だったので、その名残があります。もっと遡れば、ここは伝説的なバー「ラジオ」があった場所でした。

渡辺　昔から大人の社交場だったんですね。道理で風情がある。成田さん個人的には、この店でどう楽しんでもらいたいなどありますか？

成田　特にないですが、お酒や料理の写真を撮るのに長い時間をかけている方には、ソワソワしてしまいます（笑）。ほかの方に迷惑がかからなければ僕としては十分です。

渡辺　なるほど。バーはほかにもマナーが厳しそうで、ビギナーは少し戸惑ってしまうかもしれません。

成田　肘をつかない、カウンターでは帽子を取るなど、厳格な店もあります。うちは比較的カジュアルですが、たまに冗談を交えてそういうルールをお話しすることもあります。

渡辺　バー経験が少ない人でもここなら安心だ。そういう所作も美しい文化ですが、緊張したり怖がったりして飲むのは味気ない。料理も豊富ですが、メインはカクテルですか？

成田　カクテルやワインが主で、お酒のお供に料理も出しています。また、お客様が召し上がってきた食事に合わせてカクテルを作ります。



渡辺　なかでも成田さんがいちばん好きなカクテルは何ですか？

成田　ギムレットです。飲むのも、作るのも。ハーブが効いたジンを使って飲みやすく仕上げます。

渡辺　いいですね。ところで成田さんは、フリーのバーテンダーだと聞きました。珍しいですね。

成田　この店は3人のオーナーが立ち上げて、当時独立したいと思っていた僕を誘ってくださいました。ですが、今後は僕がオーナーになることが決定しました。

渡辺　おお！ では店の雰囲気も変えていくんですか？

成田　大きくは変えません。これからもふらっと飲みに来てほしいです。ただ同時に、もっと非日常を味わってもらいたいという願望もあります。

渡辺　というと？

成田　あくまで日常の延長だけれど、ドアを開いた瞬間に特別な何かを体感できる。そんなイメージです。

渡辺　ここに来ることでスイッチがオン、あるいはオフになる。お酒に酔うという行為自体が、ある意味で非日常なのかもしれませんね。

——日常の中の非日常。夜明けまで飲まずとも夢心地の酔い明けを。