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中村文則「文学にはファッションとして触れるのもアリなんです」〜ニューウェーブ インタビュー〜

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知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。


【中村文則】

1977年、愛知県生まれ。小説家。2002年、『銃』で新潮新人賞を受賞してデビュー。’04年『遮光』で野間文芸新人賞、’05年『土の中の子供』で芥川賞、’10年『掏摸〈スリ〉』で大江健三郎賞、’16年『私の消滅』でドゥマゴ文学賞を受賞。翻訳本が刊行され海外での評価も高い。

人間の奥底に潜む悪や欲深さをさまざまなかたちで描き、世の中へ問いかけてきた小説家・中村文則。新刊『R帝国』は、民主主義の経済大国ながら独裁政権にいたった国を舞台に、国家の思惑に疑念を抱いた主人公たちが逆襲を企てようとするディストピア小説だ。

「このままだと日本は全体主義になるのではないかと危惧しています。僕は、普通の人より日本の戦前と戦中、また海外の独裁政権下にあった作家たちが手掛けた小説を読んでいると思いますが、その書物に書かれていることと、現在の日本が置かれている状況はかなりの正確さで符合します。そこに危機感を持ちました」

「朝、目が覚めると戦争が始まっていた」という衝撃的な一文で幕を開ける本作。ページをめくるにつれて、顔が歪むような恐怖に包まれる。だが、綴られる物語から目は離せない。混沌とする世界情勢、ネット上に溢れる中傷、ヘイトスピーチ……。本書で描かれる世界は、まさしく今の世相にピタリと一致するからだ。

「人間は半径5mの幸福を求めます。それは当たり前のことですが、そこにばかり目を向けていてはいけない。ネットで繰り広げられている幸せ合戦については作品の中でも書きましたが、誰かにわざわざ発信することは、もしかしたら自分が幸せな状況にないためなのかもしれない。いちばん大事なのは、人と自分を比べないことです。また政治や社会問題に対して、ある程度の年齢を重ねた人は、何かしらの考えをひとつ持っておいたほうがいいと思います」

そういう中村はOC世代。巷では、40歳を過ぎた男性は経済書やノンフィクションをより好む傾向にあるといわれるが、「そのような男性層にも読んでもらいたいと思いノンフィクション的な要素も取り入れました」と、文学の可能性を未来へ広げるために、さまざまな表現に挑戦する。

読書はファッションの側面を持つ、ともいう。
「何かを選ぶ行為は自己主張の表れ。本も自分が選び所有するものですから、形から入っていいと思うんです。オーシャンズを読んでいる人は恐らくモテるでしょうから必要ないかもしれませんが(笑)、例えば女性を部屋に連れてきたとき、小説を本棚にズラリと並べていると“この人、普段はお調子者だけど、意外と深い?”なんて思ってもらえるかもしれません(笑)」

文体に柔軟性を持たせ、書物との新しい付き合い方を提案するのは、溢れんばかりの愛情を文学に抱くため。この先も小説家ありたいという中村の新刊は、時代がその内容を追いかけ始めてしまったと読める今だからこそ、手にしたい1冊である。

『R帝国』

中村文則/中央公論新社/1600円

情報化が進む一方、全体主義が蔓延する近未来のディストピア作品。舞台は、資本主義で民主主義で経済大国の島国、R帝国。ある日、このR帝国が隣国と戦争を起こすところから物語は始まる。現在進行形の世界の真実を炙り出す必読の物語。


朴 玉順(CUBE)=写真 高本亜紀=取材・文

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インタビュー , ニューウェーブ , 中村文則 , 小説 , 小説家 , 文学
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