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全ては「フリッパーズ・ギター」の元ネタから教わった~渋谷系再考論②

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『さようならパステルズ・バッヂ』を辿る旅

「フリッパーズ・ギター」の1st『海に行くつもりじゃなかった』に出会って、“男だからと言って、マッチョでなくてもいいよ”との天啓を授かった1989年、高校2年生の秋。富山の片田舎から東京・渋谷への一方的な憧れを抱いていた私は、富山からの脱出を試みる。(2017年現在のように、あらゆる情報にアクセスできてクリックひとつで聞きたい音楽が試聴してダウンロードできる環境であれば、脱出しなくてもよかったかもしれない。でも約30年前は、大都市とそれ以外での情報格差は絶望的にあったのだ)

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その脱出手段は、大学受験。それまで惰性で勉強していた自分の中に“フリッパーズのいる東京への憧れ”が加わったことで、一気に内発的動機が高まっていった。「フリッパーズ」の効果はそれだけでない。小沢健二の書いた英語の歌詞は、そのまま受験勉強対策にもなったのだ。さすが東大生。

1st『海へ行くつもりじゃなかった』のインナースリーブ。歌詞/対訳ともに小沢健二

「いくら東大生だとしても、こんな歌詞、ネイティブでもないのによく書けるよなぁ」。最初は素直に小沢健二を称賛していた自分だが、音楽誌からある衝撃的な情報を入手する。いわく“フリッパーズの歌詞や音楽はほとんど何かの引用である”――要は元ネタがあると言うのだ。歌詞はサリンジャー、ジョン・アーヴィング、レイモンド・カーヴァー等のアメリカ文学で、音楽はアズテック・カメラやオレンジジュース、ペイル・ファウンテンズ等のイギリスのポストパンク/ネオアコからの引用だ、と。

高校生の私は思う。おいおい、元ネタの人名や単語、ひとつも知らねぇぞ。元ネタも知らずに聴いて感動している自分が、とてもとても小さく思えたのである。その象徴となる曲が『さようならパステルズ・バッヂ』だ。最初に歌詞を見たときに、全く意味がわからなかったのだが、この曲にはものすごい量の情報が隠されていたのだ。

右から「ペイル・ファウンテンズ」「アズテック・カメラ」「オレンジジュース」の1stアルバム

「フリッパーズ」の源流を辿る旅は、「アズテック・カメラ」から始まった

『さようならパステルズ・バッヂ』の歌詞には、80年代イギリスのインディシーンのバンド名やそれらにまつわる単語がちりばめられている。おそらく30個以上はあるのではないか。そんな中で当時の私がなんとか元ネタに辿り着けた歌詞が以下である。

A postcard from Scotland says
It’s still raining hard in the highland
(スコットランドからのポストカードに書いてあった
高い山ではまだ激しく雨が降っているって)
©kenji ozawa

これは、スコットランドに「ポストカード」というインディレーベルがあって、そこから生まれたバンドが「アズテック・カメラ」で、彼らのデビューアルバムが『ハイランド・ハードレイン』である、ということをモチーフにしている。そう気付いた私は、なんとか「アズテック・カメラ」の1stを入手した。そして聴いてみたら、まさに「フリッパーズ」以上に「フリッパーズ」な音楽! 大きな川の源流に辿り着いたかのような爽快な気分になり、さらに他の源流も掘り起こしたくなっていくのだった。いわゆる“サブカルチャー”の世界のドアをノックしたのである。

「アズテック・カメラ」のフロントマン、ロディ・フレイムと私の2ショット。2005年のサマーソニックでの来日時にパチリ

その当時渋谷や下北沢にいた方にとっては、共感できない話かもしれない。だってそんな元ネタの情報は、街に出ていれば自然と入手できただろうから。恥ずかしながら、私にとっては「フリッパーズ」からの情報提供がなければ、そこには辿り着けなかったのである。「フリッパーズ」にそんな意図があったかは知らないが、彼らがいなければ私の世界観は間違いなく狭量なものになっていただろう。

ついに「フリッパーズ」が日本語で歌った!『恋とマシンガン』と『予備校ブギ』

1990年。その曲を聴いたときは、ひっくり返りそうになった。ついに「フリッパーズ」が日本語で歌いやがった!しかもTBSドラマの主題歌で! イントロのダバダバスキャットが印象的な『恋とマシンガン』である。(2017年現在では、TBS情報番組「あさチャン」のテーマ曲。TBSには「フリッパーズ」推しのスタッフが多いのだろうか)

ドラマのタイトルは『予備校ブギ』。緒方直人、織田裕二、的場浩二、渡辺満里奈(!)が出演していた。残念ながら富山ではTBS系列のテレビ局がなかったので(同年10月開局)、再放送で観たのだと記憶しているが、受験に恋に大忙しな甘酸っぱいストーリーで良くできたドラマだった。

『恋とマシンガン』収録の2ndアルバム『カメラ・トーク』。全曲日本語詞になっても、その引用の多彩さと秀逸さは変わらず

主題歌の『恋とマシンガン』は、10万枚以上売れて、オリコンチャートの20位以内に入った。それまで「フリッパーズ」なんて知らなかった層にも認知が進んだのか、「『予備校ブギ』の主題歌って、ヘンな曲だけどクセになるね」なんて声が周囲から聞こえるようになる。それはそれで、大切にしていた自分だけの宝物が暴かれたような気がして、複雑な気持ちになったのだった――。
(vol.3に続く)

取材・文/藤井大輔(リクルート『R25』元編集長) 1973年富山市生まれ。95年にリクルートに入社し、31歳のときにフリーマガジン『R25』を創刊。現在はフリーランスの編集者でありつつ、地元富山では高齢者福祉に携わっている。

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